過去ログ - 闇霊使いダルク「恋人か……」 U
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301: ◆7wX5w4kzRc[sage saga]
2012/06/23(土) 15:23:50.80 ID:TRsqUeZWo
「ついた」
ウィンが湖に到着するまで、五分とかからなかった。
そこらに生えている樹木ぐらいの高さにとどまり、風を受けながら湖方面を見下ろす。
使い魔もともに浮遊し、斜め上から主人の動向を見守る態勢だった。
「……」
感情の読み取れないウィンの薄い緑眼は、ボロボロにされたエリアの家を捉えていた。
ウィンが何度も遊びに行った家だった。
笑顔のエリアと語らい、おいしい料理を作ってもらい、快く寝泊りさせてもらった家だった。
最近はダルクも遊びに来るようになって、三人と三匹でちょっとした所帯ができあがっていた。
そうして少しずつ人が増えていって、いっそう賑やかな空間になるかもしれない場所だった。
でも、もう粉々だった。
廃屋。残骸。瓦礫の山。
扉を開けたときの馴染みの景色も、炊事に勤しんでいるエリアの後ろ姿も、もう見られない。
いとも簡単に、当たり前だと胸に閉じていた日常が、無理矢理思い出に変えられてしまった。
「……」
ときどき瞬きをするウィンの眼に、感情は浮かばない。
表情も仮面のように固定されたまま。
ただ、ウィンの持つ杖に、付近の空気がゆっくりと収束し始めた。
目に映るような空気の流動。巻き上げられる森の匂い。夜風の高い音。
風の霊力がじわじわと高まっていく。
まるで恐れをなすように、湖がさざなみを立て始めた。
同刻ダルクは、ウィンとは正反対の方角から湖へ接近していた。
そこそこ距離を縮めたので走るのはやめ、今は足音を消せる徒歩での潜行だった。
隠密行動に欠かせない闇霊術――『うごめく影』はすでに施されており、ダルクの存在感は希薄。
使い魔のディーもパタつく音ひとつ響かせず、木々の間を目立たぬように巧みに飛び移っている。
夜間の森の中である。
この態勢に入ったダルク達を見逃さないモンスターなど、もはや同じ闇属性でしかなかった。
今夜のダルクはすこぶるコンディションがいい。
これから無沙汰だった水中遊泳をしなければならないが、不思議と不安はない。
水中での身体の動かし方は、バーニング・ブラッドでの温泉の体感が残っている。
また水の中では視界がぼやけるものだが、今は夜。つまり水中まで闇が降りている。
ダルクなら闇を介せば、自由に視界は開くことができる。
水質そのものが濁ってでもない限り、エリアを見つけ出せる自信はある。
いや、100%見つけ出し、救い出す。
危機に陥った友人を、助け出す。
この目的は揺るがない。できる。
ダルクが決意を確かめ、ひときわ大きな木の根を渡り越えた、そのときだった。
「!?」
ほんのり強めの風が、ダルクの身体に吹き寄せてきた。
風向きは真正面。
つまりここから進んだ先にある湖の、およそ対岸に当たる方角。
(始まったな)
ウィンによる、ギコへの陽動の影響だ。
これだけ離れた位置まで風が伝わるのだ、きっと現場では大荒れ模様だろう。
ギコが湖から出ていくのを見届けるには、付近で待機する必要がある。
ダルクは急ぎ足を早めた。
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