過去ログ - 闇霊使いダルク「恋人か……」 U
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345: ◆7wX5w4kzRc[sage saga]
2012/07/06(金) 16:16:10.02 ID:Y4t+CzDdo
 ――
 
 一体のガガギゴの影が湖中を泳ぐ、いや飛んでいく。
 乱暴に腕かき足跳ね、ギコはぐんぐん斜めに伸び、まっすぐ岸辺へ近付いていった。
 向かう先は、水中からでも感じる濃厚な『闇』の出所。
 今度もエリアを守り抜き、また今度こそ仇敵を倒さんと、ギコは勇んで四肢を躍動させた。
 
 
 ギコは、ダルクが予測したとおり、コザッキーのレベル変換実験によって『闇』に侵されていた。
 幼いギコがここ最近でいっそう強まった一途さ、横暴さといった感情が『闇』につけこまれ、
 自我が「負」に染まる原因となってしまったのだ。
 
 ギコを変えた張本人、コザッキーも別に意図したわけではなく、言うなれば実験の副作用だった。
 コザッキーの実験にはほぼ「闇」を主体とした資材が扱われるゆえの、一影響に過ぎない。
 
 とにかく『闇』を身体に取り込んだギコは、『闇』を感知する能力に目覚めていた。
 ただの副作用で、ここまではっきりした能力の発現は通常ありえないことだが、
 ギコに限っては『闇であるあの男から』『主人を守る』といった執念に合致したもの。
 稀有ではあるが、不思議ではなかった。
 
 
 ほどなくして閑静な湖に、水と大気の境界が突き破られる音が響いた。
 重くへばりつくような着地。葉脈のように滴りゆく水。
 ――爬虫類の低い唸り声。ギコが再び地上に降り立った。
 
「グルル……」
 
 ギコは紅蓮の炯眼で、ぐるりと周囲を見渡した。
 感じる。強い『闇』が、ギコの触感を伝ってくる。
 
 ギコが得たのはあくまで『闇』を感知する能力。
 闇属性モンスターそのもののように、暗闇で目が利くようになったわけではない。
 従ってギコの視界はほとんど真っ暗で、月明かりによってうっすら地形が判別できる程度だった。
 
 だがそれで何も問題なかった。
 ギコは数歩のしのし前に進み――呼吸の整えと共に、ダッと駆け出した。
 あまり離れていないところに、いる。
 今日すでに二度感じた気配と同じものが、あの茂みを越えた先にある。
 
 
 事実、その地点には闇霊術の『漆黒のトバリ』が展開されてあった。
 暗闇の中でさらに濃厚な『闇』を生成する術だが、今のギコには何の意味も持たない。
 
 その前傾姿勢での疾走は、あっという間に茂みを越え、木々を抜け、目標地点へと迫った。
 もうすぐ目の前、すぐそこに、『漆黒のトバリ』が漂っている。
 ギコは意にも介さず、唸り声と共にそれに飛びかかった。
 
 が。
 
「!?」
 
 太い腕は、虚空を薙いだ。
 拍子に体勢を崩し、危うく転びかけてしまう。
 
 あの男の気配のかたまりが――あの男が、真上に飛んだ。
 背の高いギコの腕から逃れるほどの、人並みはずれた跳躍。
 いや……跳躍ではない。降りてこない。飛んだまま落ちてこない。
 
 そこでようやく、ギコは何かが羽ばたくような音を耳に聞いた。
 だがその時にはすでに、
 
「つれたつれた」
 
 ウィンの放った『突風』が背後に迫っていった。
 甲高い叫びのような音とともに、木々をしならせる暴風がガガギゴの背中を押し込んだ。
 ギコはなすすべなく、前のめりに吹き飛ばされるようにすっ転んだ。
 
「ディー君、プッチ。あとはウィンちゃんにまかせて」
 
 ウィンの言葉で、D・ナポレオンとプチリュウはたちまちいずこへ退散した。
 ダルクの杖と、それにひっかけたローブを、二匹仲良く持ち上げて。
 
「!? !?」
 
 ギコにはまるで状況が分からない。
 突然の攻撃的な風。周囲は視界不良。手がかりの『闇』の気配は、みるみるうちに上空へ昇っていく。
 
 混乱するギコをよそに、ウィンは湖の方へちらりと目をやった。
 
「ダル君がうまくいきますように」


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