過去ログ - 闇霊使いダルク「恋人か……」 U
↓ 1- 覧 板 20
4:【2/6】[sage saga]
2011/12/13(火) 16:08:22.29 ID:6WSLdOzoo
暗闇のベールが下りた木々の奥に、ひっそりと隠されたような広い湖。
湖面は余すところなく月星の光を受け、水面の揺れに伴いきらきら照り返している。
あちらこちらで夜虫の唄が忍ばれているものの、湖一帯は静かなものだった。
周囲には人影どころか、夜行性モンスターの一体も見当たらない。
もっともダルクにとっては、水色の長髪を持つ水霊使いの女の子さえいなければ十分だった。
前回の二の舞にならず、まずは一安心……とはいえ、ちょっぴり寂しい気がしないでもない。
(よし、今のうちに……)
ダルクは硬い砂地になっている水際まで近づくと、ゆっくりと腰を下ろした。
手にした水がめを、そっと水の中に沈めていく。
ひらけた場所での目立つ給水作業だったが、ちゃんと保険はかけてある。
ダルクのコウモリ型の使い魔・ディーが、高所で目を光らせているのだ。
ディーは万が一のことが起こった際には、すぐに主人に危険を知らせる態勢を取っていた。
小さいながらもいざとなったら戦いの助けにもなる、ダルクの心強い相棒だ。
しかし――さしものディーも、水の中だけはケアできなかった。
ダルクも、まさかそんなところから何かが現れるなど思ってもいなかった。
「!?」
ダルクが異変に気づいたのは、水を汲んでいる視界の上部の動き。
水面に映し出された月のゆらめきが、ひときわ大きく膨れ上がったように見えたのだ。
「うわっ!」
静かな水音とともに水柱がのぼり、おもむろに形となって現れたのは――亡霊。
全身白一色の亡霊だった。
人型のシルエットをしており、顔はのっぺらぼうで表情は分からない。
(アンデッド族か!)
なぜこんなところに。
とにかくこの至近距離では危険だ。
「ディー!」
ダルクは素早く合図しながら、水際から一足飛びに飛びのいた。
舞いおりた使い魔を宙にはべらせ、杖を突き出して身構える。
「……」
亡霊の方に動きはない。水上に出てきて、佇んでいるだけだ。
しかし油断はできない。ダルクは距離を保ちつつ、注意深く亡霊を観察する。
よく見ると亡霊の白影は、長髪の女性をかたどっていた。
さらにその背中には、薄桃色をした蝶の翅のようなものが大きく開いている。
また胴体から下はドレスのように広がっており、それはさながら泉と一体化しているような印象を受けた。
(……敵意がない……)
ダルクは杖を下ろした。
もしかすると、何か大きな勘違いをしているのかもしれない。
この亡霊には多くの亡霊型モンスターと違い、確固たる存在感がある。ないでも希薄でもない。
そしてそれは、この泉全体から受ける印象と全く同じだった。
『――あなたは泉に害を及ぼすものですか? それとも無害なものですか?』
不意に亡霊が語りかけてきた。
周囲の空気と共鳴するかのような、優しい女声だった。
1002Res/399.40 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。