過去ログ - 闇霊使いダルク「恋人か……」 U
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5:【3/6】[sage saga]
2011/12/13(火) 16:09:13.87 ID:6WSLdOzoo
ダルクは肩の力を抜いた。
「害を及ぼすなんてとんでもない。オレは水を汲みにきただけだ」
片腕を斜めに下げ、ディーに周囲警戒に戻るよう指示する。
そのまま臨戦態勢を解き、ダルクはゆっくりと水際に近づいていった。
先の言葉からして、この亡霊はおそらく泉の主か何かだろう。
前回のエリアの際は、ダルクは直接泉に干渉しなかったから、きっと現れなかったのだ。
見立てどおり泉を守護する者であれば、丁重に応じて挨拶をしておかなければならない。
「はじめまして。オレは……オレは闇霊使いのダルク。数日前にここに移り住んできた」
ダルクは少しためらったが、あえて『闇』の名を冠して名乗った。
「町」では自分でタブーとしていたが、この森ではすでにエリアに名乗った前例がある。
下手に隠すのは逆効果かもしれず、そのうちバレるならいっそここで明かしておきたかった。
『ダルク――あなたはもしや、エリアのお知り合いの方ですか? それとも別人の方ですか?」
亡霊の声が少しだけ柔らかくなる。
エリアの名を耳にしたダルクは一瞬はっとし、すぐに納得した。
エリアはここで堂々と水浴びをしていたので、この亡霊と何らかの繋がりがあっても何も不思議ではない。
「ま、まぁ、知り合いというか、エリアとはまだ会ったばかりだ」
『エリアの知る方であれば、信用しても良いでしょう』
亡霊は両手を胸に当てた。
泉全体に、亡霊を中心に大きな波紋が広がる。
『はじめまして。私は「泉の精霊」。この湖を守護するものです』
「は、はじめまして」
ダルクは丁寧に一礼したが、その胸中には焦りが生じ始めていた。
この泉の精霊がダルクのことを知っているということは、当のエリアから何か聞き及んでいるということ。
そう思い至るやいてもたってもいられず、ダルクは気がつけば口に出していた。
「あの……エリアはオレのことを、何か言っていたか?」
『はい。私はエリアから、あなたに関する出来事を詳しく伺いました』
「……そ、それでエリアは?」
『そうですね』
泉の精霊はいったん言葉を切り、すぐに慣れたような口調で続けた。
『あなたはエリアが怒っていたと思いますか? それとも怖がっていたと思いますか?』
「えっ?」
『あなたは、私からの口づてでエリアへの対応を決めるのですか? それともそれは影響しないのですか?』
「な、何を……」
あなたは……いまここで、答えを知るべきと思いますか? それともご自身で確かめるべきと思いますか?』
「! ……そ、そうか」
ダルクは気付かされる。
エリアがいま自分に対しどんな感情を抱いているか……それを当人のいないところで事前に知る。
そんなこずるいやり方は、断じて自分でけじめをつけたとは言えない。
それにどの道どんな対応をされても、きっちり謝るのは変わらない。男なら腹をくくるべきだ。
「……ありがとう。エリアの件はこちらでカタをつけておくよ」
とは言ったものの、本当に怒っているか怖がっているかであれば、何とも顔を合わせづらい。
この泉の精霊はたびたび独特の二択を問いかけてくるが、常にどちらかが正解なのだろうか……?
ダルクが顔をうつむけたその時、先ほど置きっ放しにした水がめが目に入った。
そうだったとばかりに、いそいそと砂地に転がっていたそれを拾い上げる。
「ところで、今夜ここに来たのは水汲みが目的だったんだが、どうかここの水を分けてほしい」
『もちろん構いませんよ。ただし』
「?」
『できればこの泉を使うときは、私に何か小話をしていってくれませんか?』
「こばなし?」
『はい。なにぶん私はこの泉から出られないゆえ、ろくな楽しみもままならないので』
泉の精霊に顔はなかったが、ダルクはその微かな動きから、何となく微笑んでいるような印象を受けた。
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