過去ログ - 闇霊使いダルク「恋人か……」 U
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72:【1/3】[sage saga]
2012/01/18(水) 15:45:02.24 ID:0X+q1dAqo
「ギコ君、ダルク君、大丈夫!?」
まるで幾重にも波紋の輪が広がるような、動的ながらも透明感を帯びた美声。
聞き間違えるはずもない。
ダルクは出血でにじむ片腕を必死で押さえながらも、できる限り居住まいを正した。
再会はまだ先送りする予定だったので、いささか観念する気持ちで彼女の到着を待つ。
ダルクの使い魔のコウモリ型モンスター・ディーも、森の木々に紛れて気配を殺した。
『六芒星の呪縛』に捕らわれていたギゴバイトのギコも、ぴたりとうなり声をやめる。
夜闇にローブが馳せ、水色の長髪がなびいた。
大きな杖を抱えた少女が、泉の精霊に先導されるように岸辺を駆け、こちらに向かってくる。
あの長い透いた髪。焦燥した顔つきでさえ画になる、あの整った容姿。
一足ごとに危うくはためく、あのミニスカート――はいいとして、もはや間違いなかった。
夜目の利くダルクは、数日前に知り合ったばかりの女の子の姿を、はっきりと捉えていた。
「エリア……」
ダルクは彼女の名を口にしたとたん気恥ずかしくなり、無意識に口を結んで目を伏せた。
自分の脈拍を強く感じるのは、果たして腕に負ったケガの所為ばかりなのだろうか。
「な、何があったの?」
やがて少女はダルクの元に駆けつけるが早いか、「大変!」とすぐそばに屈みこんだ。
「腕から血が!」
「だ、大丈夫、こんなの大したことは――」
「これを使って!」
エリアは素早く懐から手ぬぐいを取り出すと、有無を言わさずダルクの傷口にかぶせた。
ダルクは戸惑いながらも短く礼を言い、手ぬぐいを受け取るように傷口を押さえ込んだ。
たいそうな言い方をするなら直接圧迫。原始的ながら立派な止血手段だ。
それをエリアが知っていて手ぬぐいを渡したのかどうかは、しばらくして明らかになっていった。
「切ったの? 刺さったの? もしかしてまだ何か刺さってるの?」
「い、いや。刺さって、抜いただけだ」
「何が刺さったの? 毒とか呪いとかはない?」
「それは……」
ダルクは少し気が引けたものの、その渓流のような問いかけに流されるようにギコを示した。
拘束状態にあったギコは、エリアの驚いたような視線に気まずそうに頭を抱えた。
ギコのツメ、ヒザのトゲには、言い逃れできない量の血糊がついている。
エリアは瞬時に状況を理解すると――哀しそうに目を細めた。
「ごめんなさい。またあの子の仕業なんだね」
「い、いや、エリアが謝ることはない。これはオレがあえて受けたケガで……」
「ごめん、詳しくはあとで聞くから、先に手当てを」
エリアは杖を持ち直し、その先端を手元に寄せた。
巨大な雫をリングで囲んだようなデザインの杖先が、仄かな光を漂わせている。
「たぶんすぐに治せるけど、水の霊術を使っても大丈夫?」
「えっ? わ、分からない」
『治す』『霊術』という単語を聞いて、ダルクはすぐにライナの治療術を思い浮かべた。
同時にそのときの激痛が思い起こされ、反射的に背筋が打ち震えてしまう。
あの、身体の一部がただれて溶かされような痛みは、金輪際味わいたくはない。
「ちょっとごめんね」
するとエリアは突然、両手でダルクの片手を取った。
エリアのひんやり冷たい手が、ダルクの手首から前腕にかけてを握り伝っていく。
そのときだけダルクは痛みを忘れ、間近に座った女の子を急に意識し始めた。
垂れ込んだつややかな細い青髪。首元に大きくはだけている鎖骨。うなじ。
走ってきて間もないエリアのかすかに荒い息遣いが、どうしようもなく扇情的だった。
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