過去ログ - 闇霊使いダルク「恋人か……」 U
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74:【3/3】[saga]
2012/01/18(水) 15:47:57.13 ID:0X+q1dAqo
 
「顔をあげて? ギコ君」
 
 ギゴバイトの正面に屈みこんだエリアは、やわらかく使い魔に呼びかけた。
 ギコがそろりと顔を上げ、先刻と打って変わって淡くなった赤目を向ける。
 
「ギコ君、私は哀しいの」
 
 そばにいたダルクまで、心の底からの悲哀が伝わってくるような口調だった。
 
「ギコ君がこういうことばかり続けていたらね。ギコ君は一人ぼっちになっちゃうよ」
 
 ギコは爬虫類のような驚きの声をあげた。
 一人ぼっちという言葉に反応したのかもしれない。
 
「ううん、私はギコ君とずっと一緒だよ。でもね。心が一人ぼっちになっちゃうの。
 心が一人ぼっちだと、誰かがそばにいても、一人ぼっちなのと変わらないの。
 ――うん、よく分かんないよね。じゃあこれだけ。もう勝手に誰かを傷つけないこと」
 
 エリアが「分かった?」と念を押すと、ギゴバイトは承諾したような鳴き声をあげた。
 それを受けてエリアは、「うん、いい子」と微笑んだ。
 
「もう暴れちゃダメだよ。ちゃんと泉の精霊さんの言うことも聞いてね」
 
 そういえば『泉の精霊』の姿が見当たらない。いつの間にか泉に引っ込んでしまったようだ。
 エリアに任せておけば憂いなしと判断したためだろうか。
 この広い湖を統べる『泉の精霊』にまで信頼されきっているとすれば、やはりエリアはただものではない。
 
 エリアが頭を軽くなでて「じゃあ、おやすみ」と言うと、ギコは元気よく泉に飛び込んでいった。
 今までダルクが相対してきたギゴバイトとは、まるで別のモンスターだった。

 あの見るからにどうもうな爬虫類族を、彼女はどうやって手なずけたのだろうか――それは愚問だった。
 先のエリアの、あの母性にあふれた包容力を見て、果たして納得できない男がいるのだろうか。
 そしてその静謐な魅力に惹かれない男など、果たしているのだろうか……。
 
「さてっと。ね、ダルク君」
 
 当のエリアが、いまだ座り込んでいたダルクに手を差し出した。
 思わず心音高くなるような、澄んだ微笑み。
 
「ちょっとうちに寄っていかない? 少し話したいことがあるんだけど」
「え……」
 
 いや、いいよ、と言おうとしたところで、自分もエリアに話があったことを思い出す。
 ダルクは今の今まで、すっかり頭から抜け落ちていた。エリアに謝るべきことを。
 
「あ、ああ、実はオレも話があるんだ」
 
 ダルクは差し伸べられた手を「大丈夫」とやんわり断り、自力で腰を上げた。
 別段卑屈になった訳ではないが、自分ごときがエリアの手を握るのは大いにはばかられた。
 まるで触れるだけで、高嶺の花を黒く染めあげてしまいそうで――。
 
「そ、そうなんだ」
 
 やや詰まった声。差し伸ばした腕を曲げ、胸元に寄せるエリア。
 ダルクは何となく気まずくなり、自分の使い魔を呼んでごまかした。

 ディーは待ってましたとばかりに闇から現れ、主人の肩にちょこんと止まった。
 それを見てくすりと噴き出すエリア。つられて口を綻ばせるダルク。
 
「じゃ……行こ。こっちだよ」

 
 二人の霊使いは、湖のほとりに沿ってゆっくりと歩いていった。
 森の湖は、さっきまでの喧騒が夢であったかのように、穏やかな夜の時間を取り戻していた。
 



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