過去ログ - 闇霊使いダルク「恋人か……」 U
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770:【3/3】[saga]
2013/04/26(金) 16:20:44.57 ID:yWVa9yrno
「――ただいま」
「お邪魔します」
使い魔への指示を確認した後、二人してダルクの家に入る。
これまで主人の付近を周回していたディーも、勝手に家の中まで入ってくることはない。
これからいよいよ本格的に、一つ屋根の下に男女が二人きりになってしまう。
先刻も同じ状況ではあったが、エリアが眠っているのと起きているのとでは話も変わってくる。
思えばウィンが泊まる場合は、常にその使い魔のプチリュウも一緒だった。
それにウィンはどちらかといえば、世話をしてあげるべき妹のようなイメージが強まっている。
加えて寝泊りの回数が増すに連れ、最近では当初よりさほど緊張することもなくなっていた。
しかし今晩単身で泊まりに来る女の子は、まともに会話するだけでも気を遣ってしまうあのエリア。
同じ年頃で似た格好をしている霊術使いとはいえ、風と水ではまるで訳が違った。
「適当にくつろいでていいぞ」
「うん。お構いなく」
帰宅直後特有の、荷物を片付けたりランプを灯したりといった騒がしさで、多少は時間稼ぎできる。
しかしその後、どうやって場を繋いだものか分からない。
とりあえずウィンにいつもやっているように、何か飲みものを出して――
「ダルク君」
「な、なんだ?」
不意の呼びかけに動転し、ダルクは戸棚に手を伸ばしたまま振り返る。
そこには、前に垂れ下がった長い青髪。
上体をこちらに折り曲げたウィンの姿。
「しばらくの間、ここでお世話になります。ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
その言葉で、やっとお辞儀をしていたのだと知る。
同時に、本気のウィンに負けず劣らずの礼儀の良さに感心しながらも、狼狽を隠せずにはいられない。
「い、いや、いいよ! そんなことしなくてもさ」
「ううん、こういうことはちゃんとケジメをつけとかないと」
「そ、そうか」
もしかしてウィンに礼儀作法を教えたのはエリアなのかもしれない、とダルクが悟った束の間、エリアと目が合った。
同時に目を逸らしてしまったが、かえって気まずい空気が流れてしまう。
「えっと……それでね……」
その雰囲気で、横へ視線を投げかけながら、エリアが何やら言いづらそうに切り出した。
「さっそくなんだけど……お願いがあるの……」
背中に手をやり、横に顔を逸らしたまま、「えっと」と、もじもじそわそわするエリア。
「私、これから居候する身だから……その……」
ダルクの鼓動が高まっていく。
汗が垂れる。唾を飲み込まずにはいられない。
「ダメだったらいいんだけど……ダルク君がイヤじゃなかったら……」
エリアの熱っぽい顔。唇から漏れる吐息。
身体の輪郭を縁取るインナー。
ミニスカート――。
「そこ、掃除してもいい?」
「えっ?」
伸ばされた人差し指をたどる。
よく見ると、あぁ、そのへん少し掃除した方がいいかも、程度の汚れ――。
「……これ、こっちに置いてていい?」
「ああ」
「あ、ここもちょっと片付けるね」
「ああ」
エリアはこなれた様子できびきび動いた。
後から聞いた話では、エリアはここで目覚めたときから気になって気になって仕方なかったらしい。
イスに座ったダルクは、意気揚々と清掃に勤しむ女の子を眺めながら、すっかり脱力感に打ちひしがれていた。
ともあれ、何かの大事に至らなかったことにホッとする自分がいるのも確かだった。
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