14:JK[saga]
2011/12/15(木) 19:25:42.49 ID:fJUeZbYv0
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森下昴は月の下を放浪していた。
昴は死を望んでいる。
月光に魅せられている。
蒼白の月光に惹かれ、昴は月の下で生きる。
昴が死に魅せられたのは、人間である事にすら耐えられなくなったためだ。
自然を破壊し、動植物を絶滅させ、同族を裏切り、殺し合う。
己が斯様な生命体である事に、耐え切れなくなっていたためだ。
人間にどれだけの価値があると言うのだろう。
地上で最大に醜く、醜悪な生物。それが人間だ。
人間など滅んでしまえばいい。
人間である自分など消えてしまえばいい。
思っていたから、死に至りたかったのだ。
昴が一体の夜叉と邂逅したのは、ほんの数日前の事だ。
天女の如き容姿ながら、自らを夜叉と呼ぶ者。
昴は彼女と邂逅してしまった。
名を月夜叉。
月の下を往く夜叉だ。
昴は人間ではなく、知的生命体として存在している月夜叉に興味を惹かれた。
人間という醜い生物を超越した超生命体(月夜叉が仮に生物であったとして)。
昴はその月夜叉にひどく惹きつけられてしまっていた。
「月夜叉」
月光の下のある高層マンションの屋上で、昴は月夜叉に漫然と声を掛けた。
『何用だ』
ひどく澄んだ声、否、思念か。
斯様な透き通る天使の如き思念の波で月夜叉は応じる。
天女の如き存在と自らが近い位置にいる現実に気分を良くし、昴は唇を微笑に歪めながら続けた。
「君は何のために存在している?」
『その質問の意図を訊きたい』
「夜叉としてこの世界に存在する以上、
君にはやらねばならない事があるはずだ。
生命体として存在しているのなら、確固とした存在理由を所有しているべきだろう?」
『私は生命体ではないぞ、昴。
ただの夜叉だ』
月夜叉の言葉に微苦笑し、そのまま昴は肩を竦めた。
己が夜叉よりも優れた存在と感じ、自己に酔う。
「分かっていないね、月夜叉。
君は人間を超越した存在なんだ。その位階に君は存在している。
人間を超越して存在している以上、生命体でなくとも何かを成さねばならないんだ」
『度し難いな、昴』
「そうかい?」
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