過去ログ - 夜叉「もうすぐ死ぬ人」
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17:JK[saga]
2011/12/15(木) 19:27:43.98 ID:fJUeZbYv0
『呼称が何であろうと何も変わらない。
単に耳に良いか、悪いか、それのみだ。
とどのつまり、昴のしている行為は手首切りに違いないだろう』

月夜叉の淡々とした言葉。
瞬間、昴は月夜叉がやはり夜叉なのだと、思い知らされた。
感情は存在せず、事実の渦の中にのみ存在し、それ故に最も真実に近い存在なのだと。

だが、昴はそれを認めようとはしなかった。
認めたくはなかった。
黙り込んでいる昴を意に介さず、月夜叉は淡々と続ける。

『真に死にたいのであれば、手首より腹を割くべきだ。
若しくは斬首ならば確実だろう。
頸を刎ねられた生物はほぼ確実に死に至る。
無論、それでも生きている生物もあるが』

昴は髪を手に纏わり付かせるようにしてから、顔に手を当てて唸った。
何だ。何なんだよ、こいつは。
感情も同情もなく、真実のみを突きつけてくる。
他者の存在など意に介さず、己の思う事のみを真実だと考えている。

昴は月光を浴びる。
月光は全ての生物に平等に降り注ぐ。
例外なく、淡々と、柔らかく、優しく、そして残酷に。

月光が。

月夜叉の肌を照らし、彼女を蒼白な化物のように見せる。
瞬間、昴は説明し難き動悸に襲われた。
眼前の夜叉が、醜悪な怪物にしか見えなかった。
否、そうであってたまるか、と昴は必死に己の考えを振り払う。
月夜叉は目覚めた者である自分を更なる位階に誘いに来た天女なのだ。
天女でなくてはならないのだ。
そうでなければ、人類の罪を直視し続けてきた己に何の意味も無くなってしまう。

昴は己の左腕に巻いてある包帯を解き、月夜叉の眼前に差し出した。
痙攣のように小刻みに震えつつ、昴は慟哭した。
その瞬間の昴は、先刻彼女が自身で考えていたように、
彼女の望む形とは異なっていたものの蒼白く光る月に叫ぶ哀れな犬そのものだった。


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