過去ログ - 夜叉「もうすぐ死ぬ人」
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20:JK[saga]
2011/12/15(木) 19:32:18.30 ID:fJUeZbYv0
されど、同時に死にたくもなかったのだ。
低俗な愚鈍共が生きているのに、どうして自分だけが死ななければならないのか。
逆なんじゃないか?
本当に死ぬべきなのは死を望む自分じゃなく、
こんな可哀想な自分に死を望ませる世界の愚鈍共の方であるべきだ。
斯様に考えていたからこそ、
昴は死に至らない安全な手段であるリストカットに没頭した。
自分は死を望んでいるという最後の防衛線を、
己と周囲の愚鈍共との線引きとしていたのだ。
その行為こそ、己が愚鈍と称する周囲の人間より醜悪で歪な自己陶酔とも気付かずに。

月光が。

今宵は三日月。
三日月から降り注ぐ月光は残酷で、昴は息をする事すら苦しくなった。

唐突に月夜叉は言った。

『昴。真に死にたいのであれば手伝おう。
生きる価値がこの世に存在しないと言うのであれば』

月夜叉は何処までも事実の中にあり、
昴にとって理論武装出来ない事実は残酷なものに過ぎなかった。
何もかもが偽りと思いたかった。
されどその事実こそが彼女の求めた真実でもあり、
偽りとして考える行為は許される現実ではなかった。
死んでやろう、と昴は考える。
幾らでも引き返す機会はあったが、彼女はそれを拒否した。
結局、彼女は周囲の人間達とは異なる自分である事に固執したのだ。
最期に一つだけ、彼女は呟いた。

「必要無い。私は自分で死ぬ。
死んでやるよ。私は愚鈍共とは違う。
死を弄び、他人の関心を惹きたい下賤とは違うんだよ!」

柵から身を乗り出し、遥か下方の地面を見下ろす。
飛び降りれば確実に死に至れる高度。

月光が。

昴を誘っているのか、妖しく照り輝いている。
死を望んでいる昴。
自死こそが、昴の行わねばならない真実だった。
漸く死の浄化に至る事が出来る。
その思いは昴を非常に嬉しくさせた。
されども、何故か空に踏み出そうとする脚は震えて止まらなかった。

後方では。
無論、何の感情も無く、月夜叉が彼女を見つめている。


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