25:JK[saga]
2011/12/17(土) 18:37:00.94 ID:JjKvBwFx0
「ねえ、月夜叉……。
あんたは誰かを好きになった事ってあるか?」
少年は常時斯様な事を思考し続けているものだ。
決まり切った約束事だ。
少年時代とは斯様な時期だ。
分かっている。
月夜叉には分かり切っているのだろう。
故に月夜叉は苦笑した。
否、苦笑するという表現には語弊があるか。
歳を経て、大人への道を歩んでしまった今の暁には分かる。
暁は人間の論理を月夜叉に当て嵌めていた。
何分、少年の時分だ。無理もない。
されど、今の暁には分かってしまう。
月夜叉は苦笑などしない。感情を動かす事などない。
苦笑した様に見えていたのは、無論、暁の錯覚だ。
自分がそうあって欲しいと思っているだけに過ぎず、
無表情な月夜叉に何らかの感情を期待してしまっていたのだと。
暁が思うに過去の暁は他人の表情を恐れていた。
他人の表情ばかり気に掛けていた。
自らの劣等性を他人に感じ取られたくはなかった。
自らの才能が皆無である事実を他人に知られたくはなかった。
例え知られたとしても、
他人がその事で自らを軽蔑する表情だけはどうしても見たくはなかった。
それを見たくはなかった。
故に無表情な月夜叉に期待を掛けていたのだ。
『斯様な感情、私には理解出来ないが』
月夜叉がそう答えるのも、恐らく暁には承知だった。
承知の上で、何度も月夜叉に問い掛けていたのだ。
決まり切った答えを期待していた。
「俺は……、月夜叉の事が好きだよ」
周囲の同級生や、家族にすら言った事がない言葉。
『好きだ』という言葉。
本気でそう感じていたのか否かは、現在の暁にも分かってはいない。
一つ言えるのは暁が月夜叉だけを信頼しており、
月夜叉を生きていく最後の砦の如き存在として考えていたという事だ。
斯様な意味では、確かに暁は月夜叉を好きであったし、愛してもいたのだろう。
否、恐らくは、好意と言う感情は他者への歪な期待に他ならないのだと暁は考える。
その対象が、人間であれ、非人間であれ、それは変わらないのだと。
月夜叉はそれを分かっていたのだろうか。
無表情に、ただ無表情に、月夜叉は淡々と呟く。何もかもに無感動に。
『それは私と性交したいという意味か、暁』
月夜叉の言葉に暁は確かに微笑していた。
暁には分かっていたのだ。
自分が月夜叉に好きだと言えば月夜叉はそう言うだろうと。
そして、暁を拒む事は決してないだろうと。
醜悪な打算に満ちた。
「そうだよ、月夜叉……」
かくも暁は計算高く、思春期の少年であり過ぎた。
極当然の少年の姿だった。
月光が。
月光が降り注ぐ中、暁は月夜叉と共にあった。
失ったものを取り戻すように、暁は月夜叉を幾度も幾度も求め続けていた。
無論、何の意味もない行為。
されど、その時分の暁は、斯様にしか生きられなかった。
それが少年であるという事だ。
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