37:JK[saga]
2012/01/12(木) 20:41:06.58 ID:DE4CuiAp0
『だがな、泉。
人の子は、それで、いいのだ。斯様な存在で、いいのだ。
私はそう思う。人の子は親しき人の死により悲嘆に暮れる。
されど、いつしか親しき者の死を忘れゆく。
それで、否、それがいいのだと、私は思う』
「そうだね……」
世界は決して自分の妄想などではない。
自分が消えた所で、自分の居ない世界は続いていく。
仮に人類が滅亡したとしても、人類の在らない世界は存在し続ける。
何が失われたとしても、他の何かには何の影響も及ぼさないのだ。
自分が在ろうが、在らなかろうが、世界は何の問題も無く続いていくのだ。
いずれ泉の知人たちは泉を忘れるだろう。
泉の記憶を頭の片隅へと追いやるだろう。
何時しか誰の記憶からも泉は消失してしまう事だろう。
それはとても哀しい事なのだろう。
自らの存在が片鱗も残さず消滅してしまうのだから。
されど、同時に嬉しい事でもある。
死があるからこそ、人の子の無意味であるはずの生は、意義のある生へと変化していく。
故に自らの死を遥か長い時間、誰かの胸に置くのは、きっと良くないのだと泉は思っている。
自分が精一杯生きてきたように、妹の空にも生きて欲しいから。
自分の死を負担としてもらいたくはないから。
誰が生きる事も、誰が死ぬ事も大した問題ではない。
それらは単なる自然現象に過ぎない。
故に……。
「お月……」
呟きながら、これが最期の言葉になる、と泉は実感していた。
月光が。
今宵は無い。
今宵は人々を包まない。
されど月は空に在る。
新月の夜も、肉眼に移らないだけで、やはり月は空に在る。
「最期に……、お月に逢えてよかったよ……。
やっぱり一人で死ぬのは……少し」
寂しいから、と言葉に出したつもりだったが、言葉にはならなかった。
発音すら出来なかった。
どうやらここまでらしかった。
意識が闇に染められていく。感覚が遠ざかる。
死がそこまで訪れている。
されど月夜叉は頷いたのだった。
泉の言葉が分かっていたかのように。
そして、
最期に見た、
月夜叉の表情は、
もしかすると、
40Res/54.44 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。