過去ログ - 夜叉「もうすぐ死ぬ人」
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8:JK[saga]
2011/12/14(水) 02:55:31.56 ID:7vHzEqmB0
人間には羨ましい事であろう。
人間は、生物は、生まれ、いずれ消えていく。
志半ばで斃れる者も少なくあるまい。
否、満足して死ねる存在などそう多くもあろうはずもない。
知っている。
月夜叉は悠久の時を生きてそれを知っている。

されど、月夜叉は雪に言わねばならなかった。

『確かに私は絶えない。
死という呪縛にも縛られていない。
しかし、雪。私は偶さか思うのだ。
私はただ生物の旅を傍観しているだけなのではないかと。
生物には時間がある。生物は限られた時間の中を生きる。
では、死のない私はどうだ。
死のない私には逆に時間そのものがないのではないだろうかと、偶さか思う」

雪は複雑に微笑した。
雪のように、儚い微笑だった。
そうかも知れないね、と雪は呟いていた。

「でも……。
やっぱり……、死ぬのは厭だな……」

それもそうかも知れない。
月夜叉には分からない。
月夜叉は人間ではないから。
月夜叉は魑魅魍魎に過ぎないのだから。

月光が。

きっと雪は月光を求めていたのだ。
死を目前とし、月光を無性に求めてしまったのだ。
月光は人に死を与えるものだから。
月光は人の死を司るものであるから。

だからこそ、月夜叉を視認する事が可能だったのだ。
月夜叉は死を司るものだから。
己に死が存在しないため、他人に死を与えられる夜叉だから。

月光が。

雪と月夜叉を包み込んでいる。


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