9:JK[saga]
2011/12/14(水) 03:03:16.39 ID:7vHzEqmB0
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それ以来、月夜叉は雪に逢っていない。
逢えるはずも無い。
雪は消失したのだ。
この世界から、欠片一つ残さず。
月夜叉が雪を喰らったためだ。
月夜叉は、夜叉だ。
人の子を喰らう鬼だ。
あの日、雪は月夜叉の食糧となる事を望んだ。
雪は知っていたのだ。
夜叉は人を喰らい、人と共に存在しなければならないものだと。
死を間近にし、月夜叉と邂逅する事で本能的に察していたのだろう。
月夜叉ではない何者かに、自分が夜叉の贄に選別されたのだと。
夜叉は餓えている。
人の血肉を欲している。生まれ付いての衝動。
それが夜叉だ。
捕食せずとも死に至るわけではないが、
長期間、人を喰らわなければ、夜叉は無意識的に人を襲ってしまう猛獣と化す。
惨劇の原因と化す。
故に夜叉は、人を喰らわなくてはならない。
人を喰らい、存在し続ける事を義務付けられた存在なのだ。
月夜叉は。
故に雪は月夜叉の食糧となる事を望んだのだ。
雪を喰らわねば、月夜叉はいつか獰猛な野獣と化してしまう。
雪はそれを見たくはなかったに、違いない。
短い時間とは言え、友として生きてきたのだから。
すぐ消えてしまう命であるならば、
いっそ友人の為に使っておうと雪は考えたのだ。
死ぬのは、厭だな。
雪はそう言っていた。
だのに、何故自分に命を捧げたのか、月夜叉には理解できない。
月夜叉は人ではない。
感情など持ち合わせていない。
月夜叉は、夜叉だ。
人を喰らって生きる。斯様な存在だ。
感傷も悲哀も彼女の内には存在しない。
されど、自分の糧となった幼子に、思いを馳せてみるのもいいだろう。
時間は悠久だ。
恐らくは月夜叉は無限に考え続ける。
夜を往き、自分の糧となる人々の事を。
彼女は夜を往く。
月光の中で生きる。
彼女は月夜叉。
月光の下の夜叉だ。
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