過去ログ - 魔王「異世界でネトゲしてくる」
1- 20
9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2012/01/07(土) 16:53:51.78 ID:g2OIaAUDO

「……待てるものなら、待ちたかった」

主君は、万感の思いを噛み締めるようにぽつりと漏らす。

「しかし……もうわらわには時間が残されていない」

「それは、どういう……?」

「寿命じゃ」

その一言は、広大な広間に朗々と響き渡ったかのような錯覚を側近に与えた。

「寿、命……?」

思いもしない理由に戸惑う。
そんな馬鹿な、という思いと、まさか、という思いが混在していた。

「わらわ達はあまりに長くを生きるため、わざわざ齢など教え合わぬ。
そなたらはどうか知らんが、わらわにはお迎えとやらが刻々と迫っておる。
仲間内初の老衰者はわらわであったか……」

感慨深げに呟く主君を、側近はただ見つめることしかできない。
あまりにも無常な現実。
怜悧な刃で突きつけられた衝撃に、言葉を失っていた。

「あ、う……」

ややあって、側近の口から意味を為さぬ呻きが零れ出す。
頬を、大粒の雫が濡らしていた。

「そう悲しむでない。湿っぽいのは好かぬ。逝く寸前にまで、そのような泣き顔を見せてくれるなよ?」

「っ……、はい」

笑って送り出してくれ、と付け足し、悠然と微笑む主君。
しなやかに、しかし力強く聳え立つ大樹を思わせる姿に、側近は歯を食い縛り、不恰好に微笑み返す。
そして、このような主君と巡り合い、臣下となれた幸運を、因果律に感謝した。
その――次の瞬間。

「というわけでな、ちょちょいと異界に飛んで、やってみたいことがあるのだ」

悪戯っぽく相好を崩して切り出す主君に、ぽかんとした。

「ゲーム、というのは知っておろう? 遊戯のことじゃ。
いや、異界産らしき箱の形をした絡繰り品を見つけたんじゃがな?
うんともすんとも言わぬから、動力がないのかと思って魔翌力を注入してみたら、何と動いての。
真っ黒だったところによくわからんものが映し出されたのじゃ!」

「は、はあ」

嬉々として語り出す主君に相槌を打つ。
気圧されてしまいそうな勢いだ。

「それでな、それとよくわからんもので繋がっていたどことなく鼠を思わせる絡繰り品と、平べったい板状のものを使うとな、動きおるのよ! 映し出されたものが!」

その時の感嘆が蘇ったかのように、身振り手振りで感動を伝えようとする主君。
いま、玉座で足をじたばたとさせてはしゃいでいるその姿は、年端もいかない女児そのものだ。
王者としての風格は霧散してしまっているのに、側近はそんな主君も嫌いではなかった。
むしろご褒美だった。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
35Res/28.69 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice