過去ログ - 打ち止め「失恋でもしたの?」一方通行「……かもな」
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944:弱さを受け入れること、諦めること、そして…[saga]
2012/04/01(日) 02:19:17.93 ID:PwzajTw/0


老権力者を老衰へと仕向ける、この術の用途はそのようなささやかな陰謀が主なものであった。
多層化された術式は複雑且つ精密であるから、簡略化された術式を魔術師達は用いてきた。
しかし、『時』という概念に手を加えるという世界の摂理に反した術はその術を簡略化すれば本来の効果を二乗倍に薄めていくことになってしまう。
結果、ささやかな用途にならざるをえなかったのだ。
複雑且つ効果の薄い魔術は次第に歴史の年輪の隙間へと追いやられ忘れさられた。
その術が何故禁術とされたのか、その理由さえも埋もれていく事になった。
埋もれてしまおうとも、誰も気にかけたりはしない。
それほどに複雑な術を、完璧に発動させることなど誰も想像だにしなかった。



「禁書目録ならおそらくはそれを完璧な形で発動出来るのだろうな」


背後から浴びせられた鈴の音のような声に弾かれるようにステイルは地に伏している一方通行から視線を声の方へと向ける。
傲岸不遜さを笑みに乗せて、レイヴィニア=バードウェイは音も無くステイルの背後に立っていた。


「君は…」

「そこの白いのに仕向けた術も本来は大した術でも無いんだったな」


ステイルの言葉に応えるどころか視線すら向けずに、バードウェイは呻き声も立てずに倒れたままの一方通行を片目を眇めて見下ろす。
その視線には失望も落胆も無い。何かが起こるのを待つような視線を送るバードウェイに少なからず湧き上がった動揺を辛うじて抑えながらステイルは懐に手を差し入れる。


「止めておけ。今のお前の手持ちのカードでは私には勝てないぞ?歯向かってくるなら喜んで叩き潰してやるが、お前もそれは望むところじゃないだろ?」


自分よりも年下の目の前の少女がその年齢と可憐な外見に反したバケモノだということをステイルは理解している。
魔力の大半をインデックスの術式へと使い、今しがた残り少ない力を一方通行へと傾けた自分では勝つどころか、数分も保たないことも。
明け色の陽射しのボスを務めるこの少女と真っ向から相対できるものは世界中を探しても数少ない。


「自縄自縛…この術の本質はそこか」

「知っているのかい?」

「いいや。しかし、概要と経緯さえ知っていれば推測は出来る。何を目的としたのか、何を術式に織り込んだのか、そして何故使われなくなったのか」

「……此処までするつもりは僕にもなかったさ」


自分の吐き出した言葉の言い訳がましさにウンザリする気持ちを誤魔化すように煙草に火をつける。


「心の弱さを具象化させる魔術。弱さを拒絶するほどに心を苛み砕く術という事は翻せば受け入れれば効果は消えるとも言える。いや、少し違うか。それならばこの魔術は廃れたりはしないだろう。

弱さに“妥協”してしまえばそれだけで効果を失う……といった所かな?」


「――― ッ」


顔色を変えたステイルに己の言葉が正しい事を確信し、バードウェイはにんまりと不敵に笑う。


「方向性を指定できない、防ぐ手段が山ほど存在する。そして、簡単に効果を消すことが出来る。デメリットばかりが目立つからこそ、この術は役立たず呼ばわりされているんだ。

魔術とは凡人の努力の結晶と言い換えられる。脳味噌一つで如何なる現象も生み出せる能力者と違い、我々はコストを惜しんではいけない。

成果を得たいのであればそれに見合ったコストを支払わねばならない。低コストで実現できる魔術などたかが知れている」




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