過去ログ - 律「閉ざされた世界」
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135:にゃんこ[saga]
2012/02/18(土) 14:48:53.32 ID:9LZ3haPw0
突然。
私の部屋の扉がノックされた。
聡……?
一瞬だけそう期待したけど、そうじゃないって事はそのすぐ後の声から分かった。


「ねえ、りっちゃん?
ちょっと見てほしい物があるんだけど、いいかな……?」


ムギの声だった。
居間で待ってもらってたはずだったけど、私に何か用件が出来たらしい。
扉をノックしたのは聡じゃなかった。
そりゃそうだ。この家には私とムギの二人しか居ないんだから。
大体、聡って弟は私の部屋に入る時にも、あんまりノックをしない奴だった。

大きな溜息。
やっぱりもうこの世界の何処にも、私の家族は居ないんだろうか……?
聡をからかってやる事も、母さんにお小言を言われる事も、
だらしのない父さんに説教してやる事も出来ないんだろうか……?
また胸が強く痛むのを感じて、泣いてしまいそうになる。

……駄目だ駄目だ。
私は頭を振って、軽く自分の頬を叩く。
辛いのは皆、同じなはずなんだ。
澪だって唯だってムギだって、辛いはずなんだ。
梓も一見しただけじゃ分かりにくいけど、辛いんだと思う。
だから、私くらいは笑顔でいなきゃな。
部長のりっちゃんはいつでも元気で騒がしくなくちゃいけないんだ。
そうじゃなきゃ、私が皆と一緒に居ていい理由なんて……。

溜息……じゃなくて、深呼吸。
ぎこちないだろうけど、少しは笑顔になれたはずだ。
ちょっとだけ無理をして、高い声で返事をしてみせる。


「あいよ、別にいいぞ、ムギ。
どうしたんだ? 見てほしい物があるって、何か見つけたの?」


言いながら、扉を開く。
扉の先ではムギが少しだけ申し訳なさそうに苦笑していた。
出会った頃はともかく、最近のムギがこんな表情を見せる事は少ない。
私は不安になって、声を低くして訊ねてみる。


「どうしたの? 何かあったのか?」


「ううん、ちょっと……。
それよりね、これをりっちゃんに見てほしいんだけど……」


頭を軽く振ってから、ムギが私に小さな何かを手渡した。
手のひらを開いて、私はその何かをまじまじと確認してみる。
見覚えのある『ひらめきはつめちゃん』のキーホルダー。
キーホルダーと繋がってるその鍵は間違いなく……。


「お、私の自転車の鍵じゃんか。
ありがとな、ムギが見つけてくれたのか?
何処にあったんだ?」


私が言うと、ムギはまた申し訳なさそうな顔で頷いた。
ムギは何も悪い事をしてないのに、
どうしてこんなに申し訳なさそうな顔をしてるんだろう。
それを訊ねるより先に、ムギが頭を下げて言った。


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