過去ログ - 律「閉ざされた世界」
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187:にゃんこ[saga]
2012/03/04(日) 14:44:21.47 ID:3MkZB8Lw0
その一瞬、私は見逃さなかった。
去年、修学旅行の京都土産にプレゼントしたキーホルダーが、梓の学生鞄に付けられてる事に。
梓がそれをまだ付けてくれている事に。
大切にしてくれてるんだな、ってすごく嬉しくなる。
私達五人揃って『け』『い』『お』『ん』『ぶ』になる、おそろのキーホルダー。
何だかもうとっても懐かしい。

まあ、大切にしてるわりには、
梓の奴、二回もその『ぶ』のキーホルダーを落としたんだけどな。
一回目はともかく、二回目は本当に大騒ぎになった。
二回目は梓の学生鞄のキーホルダーが無くなってる事に唯が気付いて、
梓も唯に指摘されて初めてキーホルダーを落とした事に気付いたらしく、
受験シーズンだってのに、軽音部総出で学校中捜し回ったもんだ。
キーホルダーすぐに見つかったからよかったけど、
もしも見つからなかったら、受験なんかより梓の事が気になって仕方が無かっただろうな。
まったく……、困った後輩だよな……。

でも、梓がどうしてキーホルダーを落とす事になったのか、その原因には心当たりがある。
とは言っても、直接的な原因じゃなくて、落とすきっかけの一つってやつかな。
梓の教室に行ってみた時、何度か目撃した事があるんだよな。
梓が学生鞄からキーホルダーを外して、手のひらに持って嬉しそうに見てた所を。
手のひらの中の思い出を本当に嬉しそうに……。

多分だけど、そうやって何度も外してたせいで、
キーホルダーの留め金が緩くなっちゃったんだろうと思う。
それで二回もキーホルダーを落とす事になっちゃったんだ。
想いの強さのせいで思い出を失くしちゃうなんて、何とも皮肉な話だ。
でも、それはそれだけ梓が私達との思い出を大切にしてる、って意味でもあって……。
その梓の想いがくすぐったくて、嬉しくて、ちょっと切ない。

ちなみに今はキーホルダーを落とす心配は少なくなってたりする。
二回も落とした事で梓も勉強したらしく、
パスポートを入れるみたいな透明のケースにキーホルダーを入れて、それを学生鞄に付けてるんだよな。
そのキーホルダーの姿はちょっと不格好に見えるから、
留め金を丈夫なのに変えればいいんじゃないか……、って言うのは野暮だった。
きっと梓は、留め金も含めてそのキーホルダーを大切にしてくれてるんだろうからな。


「もういいよ。
すっごく気持ち良かった。ありがとう、憂ちゃん」


言って、憂ちゃんに私の身体の上からどいてもらう。
「もういいんですか?」と首を傾げる憂ちゃんの頭を撫でて、
不敵に笑ってみせると、憂ちゃんも柔らかく笑ってくれた。
唯とよく似た幸せそうな表情。
でも、よく見ると唯とは違う表情。
やっぱり、唯は唯で、憂ちゃんは憂ちゃんなんだ。
顔は似てても中身は全然違うし、わざわざ唯を思い出して憂ちゃんと触れ合う必要もない。
何となくだけど、今日憂ちゃんとちょっとだけ触れ合えて、
これからは少しは緊張せずに憂ちゃんと付き合っていけるような気がした。

私は立ち上がり、軽くなった気がする身体で梓の隣に向かう。
そのまま梓の首に後ろから腕を回して、顔を近付けて言ってやった。


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