過去ログ - 律「閉ざされた世界」
1- 20
331:にゃんこ[saga]
2012/04/15(日) 18:46:04.22 ID:3MlZ2LuN0
私は拳を握り締めて、震える心と身体をどうにか押し留める。
カチューシャを一度外して、前髪を下ろしてから、もう一度カチューシャを付け直す。
前に進んでいくために、力を入れ直すために。


「唯! 澪! ムギ! 梓!」


精一杯の大声を出して、その場の皆に私の声を届ける。
単なる空元気だってのは分かってる。
だけど、空元気でも出さなきゃ、多分、これからもっとひどい事になる。
それは嫌だ。絶対に嫌だ。嫌に決まってる。
だから、私は言ってやるんだ。
言わなきゃいけないんだ。
皆に嫌われる事になったっていい。
それでも、今はやらなきゃいけない事があるんだから。


「行くぞ!」


「行く……って、何処に……?」


呆然としたまま唯が私に訊ねる。
いや、その呆然とした表情の中に、不安の色が強まったようにも見える。
きっと私が何を言おうとしてるのか分かったんだろう。
それを認めたくないんだろう。
でも、私は、唯、おまえまで失いたくないから……。


「おまえも分かってるだろ、唯?
おまえだって、皆だって、ここには見覚えがあるよな?
そうだよ、皆で卒業旅行に来たロンドンだ。
ライブやった広場だ。
一度しか来てないわけだし、
確実な証拠があるってわけじゃないけど、多分……な」


「私だってここがロンドンだって事くらいは分かるよ、りっちゃん……。
でも……、でも……、何なの……?
何処に行くつもりなの……?」


唯がどんどん不安を増した声色になりながら続ける。
私だって唯を傷付ける事は言いたくない。
けど、このままでいいわけがないんだ。
このままじゃ共倒れなんだ。
だから、私は一番言いにくかった事を、わざと大声で言ってやった。


「ホテルだ!
何が起こったのかも、今、どうなってるのかも、分からないだろ?
だから、卒業旅行の時に泊まったホテルに行くぞ!
何をするにしたって休める所が無いと何も出来ないからな!」


自分でも酷い事を言ってる自覚はある。
大切な人を失ったばかりの唯にこんな事を言うなんて、酷いにも程がある。
私の言葉を聞いた唯は泣き出しそうな表情になって……、
いや、一筋の涙をこぼしながら、絞り出すみたいに呟いた。


「私、やだよ……、りっちゃん……。
だって……、だって憂が……、和ちゃんが……、純ちゃんも……。
居なくなっちゃって……、すぐ傍に居たはずなのに……、
皆みたいに風と一緒にどこかに行っちゃって……!
捜そうよ……、きっと近くに居るはずだよ……?
憂達なら近くに居るはず……だよ……?
憂達を置いてくなんて……、そんなの……やだよお……!」


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
657Res/1034.29 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice