336:にゃんこ[saga]
2012/04/20(金) 17:49:37.87 ID:CZrAexFF0
だから、私は選んだ。
まずは五人が無事で居られる可能性が高い選択肢を。
それしか選べなかった。
そうしなきゃ、体の震えで動き出せなくなっちゃいそうだった。
今だって、梓の手の感触を感じてるから、
梓に支えられてるから、どうにか立ってられるだけなんだ。
失くした物に目を向けてる余裕なんて持てなかった。
最低だって思うけど、最悪だって思うけど、
残された物に目を向けなきゃ、そうでもしなきゃ、私は、私は……!
「憂達を探そうよ、りっちゃん!
憂なんだし、和ちゃんだって傍に居るし、純ちゃんもきっと寂しがってるよっ?
早く……っ!
ね? 早く見つけてあげなきゃ、三人とも可哀想だよ……っ!
大丈夫……、大丈夫だよ……、大丈夫だから……。
ちょっと離れた所で、憂達が絶対待ってるんだから、だからね……っ!」
らしくなく声を張り上げて、唯が食い下がる。
食い下がりたい唯の気持ちは分かる。
同時に唯が心の奥底ではやっぱり今の状況を理解してるのも分かる。
『大丈夫』と口にしながら、唯の不安そうな素振りは全然変わらない。
いや、むしろ『大丈夫』と口にする度に、表情を歪め、辛そうな様子に変わっていってた。
唯も分かってるんだ。
この閉ざされた世界には……、
少なくとも私達の手の届く範囲には、
憂ちゃんも純ちゃんも和も存在してない事に。
それでも三人を探すべきだったのかもしれない。
時間を決めて、決められた時間まで精一杯三人の姿を探すべきだったのかもしれない。
そうすれば、誰か一人くらいは見つけられたかもしれない。
だけど……。
探し出したら、絶対にきりがなくなる。
大切な仲間達なんだ。
いくら探したって、探し足りるって事は無いだろう。
探し始めたら最後、私自身だって三人を探すのを途中で引き上げられるとは思えない。
冷たい考えだって思うけど、私は居なくなった仲間達よりも残された仲間達を大切にしたかった。
私は天秤に掛けたんだ。
消えた仲間達と残された仲間達を。
ほんの少し片方に傾いた……だけなら、まだ救いがあったかもしれない。
でも、私の中の天秤は、物凄い勢いで残された仲間達の方に傾いていた。
過去に目を向けられない。過去に目を向けたくない。
せめてこれからの事、未来の事に目を向けていたいから、私は唯に言ったんだ。
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