344:にゃんこ[saga]
2012/04/20(金) 18:23:44.68 ID:CZrAexFF0
「じゃあ、他の階の倉庫も調べてみようぜ?」
出来る限りの笑顔を向けて、私は手に持ったロープを軽く引っ張った。
そのロープの端を握り締めながら、「うん」とムギが少しだけ笑う。
今私達がロープを持ってるのは、澪の案だ。
突然一陣の風が吹いたとしても、
ロープを持ってる人間は同じ場所に転移されるはずだって澪は言ってた。
昨日、梓が言った、自分の触れてる物は一緒に転移するはず、って説を採用したわけだ。
ロープで握り合ってる程度で本当に大丈夫なのかは分からない。
こんなの単なる気休めでしかない。
皆、そんなの分かってると思う。
だけど、気休めでも、縋れる物には縋っておきたいし、
四六時中手を繋ぎ合ってるわけにもいかないから、これが一番いい案のはずだった。
ちなみに今、澪は唯と梓と一緒にロンドンの街を探索してる。
唯が憂ちゃん達の事が気になって仕方が無いみたいだったから、その力になりたいんだ、って澪は言ってた。
私も一緒に行きたいって言ったんだけど、それは澪に断られた。
誰かが残っておいてくれた方が安心出来るって、前に私が澪達に言った言葉をそのまま返された。
そう言われて、私は素直に退いた。
澪の言う事は間違ってなかったし、ムギの傍に居たい気持ちもあったからだ。
唯や梓の事が気にならないと言ったら嘘になる。
でも、今は一番涙を見せたムギの傍に居たかった。
にしても、だ。
急に逞しい感じになったよな、澪は……。
和に説得されたからってのもあるんだろうけど、
この前、私と一緒に星座を見た日から、更に頼り甲斐が出て来た気がする。
完全に開き直ってるんだろうって思う。
どうしようもない……、どうにもならない状況……。
だからこそ、まっすぐに立ち向かっていける開き直り……。
凄い奴だな、って思う。
追い込まれてからが強いってのは、澪の凄い所だ。
土壇場に弱い私も、それに嘆かずに、どうにか澪みたいに頑張りたい。
「にしても、さ。
こんな形でまたロンドンに来ちゃうなんてなー。
ロンドンにまた来れた事自体は嬉しいんだけどさ……」
何となく、ムギに軽く話を振ってみる。
深刻な様子じゃなくて、あくまで軽い感じに。
まずはお気楽な思い出話から。
過去を思い出しながら、未来の事を考えていけるように。
ムギが複雑な表情でちょっと笑ってから、私の言葉に応じる。
「そうだね……。
私もまた皆でロンドンに来たかったんだけど、いくら何でも早過ぎだよね……。
それに……、次のロンドン旅行こそ、
私のキーボードも一緒に連れて行こうって思ってたのにな……」
「お、それは私に対する嫌味かい、琴吹紬くん。
私だって持って行けるもんなら、マイドラムを持って行きたかったっての。
でも、ギターやキーボードと違って、ドラムはかさばるからなー……」
「ご……、ごめんね、りっちゃん……!
私、そんなつもりじゃなくて……」
「いいよ、分かってるって。
ドラムってのはそういうもんだし、ドラマーになるのを選んだのも私なんだ。
楽器は運びにくくてかさばって演奏も一番疲れるのに、てんで目立たない……。
それがドラマーの辛い所よ……。
でも、好きでやってる事だからさ、その辺は後悔してないよ」
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