401:にゃんこ[saga]
2012/05/08(火) 17:47:13.13 ID:KV32gPEW0
◎
ロンドンの夜、ホテルの屋上で人の生活の明かりがほとんど見えない街を見下ろす。
見える灯りは電力以外の動力で動いてるらしい灯りと、私達の灯してる物だけだった。
風呂から上がって、夕飯を食べると、皆はすぐに床に就いた。
毎日疲れてるし、電気があんまり使えない状態で夜更かし出来るほど、皆の神経は図太くなかった。
私だってそんなに図太い神経をしてるわけじゃない。
それでも、今日だけは一人で夜の風に吹かれていたかった。
だから、私は一人で屋上に上がったんだ。
秋なんだか冬なんだか分からないけど、ロンドンの夜の風は冷たかった。
大した冷たさじゃないけど、今の私なら心まで冷え込んじゃいそうだ。
念のため、ライブの衣装として身に着けてた高校の制服を着込んではいる。
体調を崩したり、風邪になったりするわけにはいかないからな。
これから進んでいくためにも、誰かに心配掛けるような事があっちゃいけないんだ。
今度こそ、皆の未来を守る決心を揺るがさないためにも。
ロンドンの街並みを見下ろしながら、思う。
私は……、どうしようもない奴だ。
見返りを求めて、皆を守ろうとしてた。
皆の事を守るんだから、少しは誰かに寄りかかったって問題無いって思ってた。
それくらい許されるって、甘えてた。
誰かの温もりを求めるために、皆に頼るために、
その代償行為として、皆の未来を守る気になってたんだ。
最低だって思う。
自分でも分かるくらい、最低だ。
ああ、認めるよ。
私は寂しかった。
ずっとずっと、寂しかった。
閉ざされた世界に来て以来、寂しさでどうにかなりそうだった。
大声で叫んでやりたいくらい、取り残された孤独に心が壊されそうだった。
和達三人が居てくれた時は、まだ耐えられた。
八人だけ取り残された世界だけど、皆、それだけなら耐えられたんだ。
これ以上失う物は無いはずだって思ってたから。
だけど……、三人を失って気付いた。
失う物が無いなんて事は幻想だった、自分勝手な希望だったんだって事に気付いた。
これ以上酷い事にはならないって思いたかっただけなんだ。
そう思わなきゃ、生きていけそうになかったんだ。
そして、その希望は壊された。
三人の姿が消えて、五人だけ取り残されて、思う。
次消えるのは私かもしれないって。
私じゃなくても、誰がまたすぐに消えてしまってもおかしくないって。
残された五人が、五人のままで居られるなんて、もう奇跡みたいなもんなんだって。
だから、誰かに頼りたかった。
だからこそ、誰かに縋りたかった。
自分の中の喪失感と絶望感を、誰かの体温で消したかった。
心を人肌の温もりで満たしたかった。
身体を求める事で、孤独から目を逸らそうとしてた。
身体だけでも誰かの温もりを感じ続けたかったんだよ、私は……。
もっと悪い事に、私はそれを梓に求めた。
梓なら私を拒絶しないはずだって、心の何処かで思ってた。
唯にいつも抱き着かれてて、人肌の温もりに弱い梓なら、
私達の事を気遣ってくれて梓なら、私を受け入れてくれるはずだって思ったんだ。
自分でも分かるくらい、ひどい打算だ。
最低な……、打算だ……。
長い長い溜息が私の口から漏れる。
自分はあんまり利口な方だとは思ってなかったけど、こんなに最低だとも思ってなかった。
見たくなかった自分の姿を自覚させられて、心底嫌になる。
こんな私が皆を守るだなんて、笑い話にしかならない。
溜息を漏らす以外、私に出来そうな事は無い。
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