過去ログ - 律「閉ざされた世界」
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404:にゃんこ[saga]
2012/05/08(火) 17:49:02.99 ID:KV32gPEW0
自分で言うのも変だけど、本当に幸せそうな私達の笑顔……。
迷わず笑えてた頃の私達……。
胸の痛みを感じる。
息苦しくなって、居ても立っても居られない焦りを感じる。
思わず写真を両手で掴む。
親指に力を入れて、破り捨てようとして……、
それは出来なくて、私は写真をもう一度ポケットの中に仕舞い込んだ。

違う。
思い出を捨てられなかったわけじゃない。
この写真は梓の思い出だから、捨てなかっただけなんだ。
三つのピックの事を知ってるのは私だけだけど、
この写真を私が持ってるって事は梓も憶えてるだろう。
だから、私は梓の思い出を捨てる事はしなかった。
今は未来だけに進もうとしてくれてる梓だけど、
いつかは思い出に目を向ける余裕が出来る日も来るはずだ。
その日のためにも、この思い出だけは残しておいてやりたい。
梓には思い出が必要なんだから。
……破り捨てなかったのは、それだけの理由だ。

不意に。


「こんな所でどうしたの、りっちゃん?」


屋上の扉が開いたかと思うと、柔らかい声が聞こえた。
振り返って声の方に視線を向けてみると、
そこには普段の髪型の眼鏡を掛けてないパジャマ姿の唯が立っていた。
その髪型が気紛れなのかどうなのかは分からない。
憂ちゃんに似せた髪型の方こそ気紛れだったのかもしれない。
でも、どっちでもよかった。
唯がどんな選択をしたって、私はそれを支えてやるだけだ。
私は軽く笑ってから、唯に言ってやる。


「おまえこそこんな所でどうしたんだよ、唯。
風邪ひくぞ?」


「むー……、私だってそんなに風邪ばっかりひかないよ、りっちゃん……。
じゃなくて、私、ちょっと目が覚めちゃって、
気が付いたらりっちゃんが居ないから捜しに来たんだよ。
やめてよ、りっちゃん……。
一人で何処かに行くなんて……、心配になっちゃうよ……」


月明りに照らされた唯の表情はとても不安そうだった。
そうだな……。
私の身の安否はともかく、唯達を心配させるのは私の本意じゃない。
私は小さく微笑んでみせてから、唯の方に駆け寄って口を開く。


「悪い悪い。
ちょっと夜風に当たりたくなってさ。
心配掛けて悪かった。もうしないよ、唯」


「本当……?」


「ああ、本当だ。約束する。
だから、そんな悲しそうな顔すんな。」


言いながら、手を伸ばして唯の頭を撫でる。
約束だ。唯が、皆が悲しむ事はもうしない。
悲しくて辛いのは私だけで十分だ。

唯の手を引いて、「戻ろうぜ」と耳元で囁く。
屋上の扉の中に入って、ゆっくり扉を閉める。
私の心の扉を閉める。
和、憂ちゃん、純ちゃんの思い出が入ってる心の扉に鍵を掛ける。


「……ごめん」


気が付けば私はそう呟いてしまっていたけど、
その言葉が唯の耳に聞こえてしまったかどうかは、分からない。


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