418:にゃんこ[saga]
2012/05/11(金) 18:19:48.05 ID:7lmMqyTV0
結局。
先に梓の方に駆け寄って行ったのは澪だった。
梓が自転車から降りて、澪がその梓の肩に両手を置くのを見届けてから、
やっと私は自分の足を動かす事が出来た。どうにかこうにか、やっとの事で動き出せた。
そうして私は、澪から何十歩も遅れて、歩き出した。
「どうしたんだ、梓?
非常事態なのか?
唯かムギに何かあったのか……?」
さっきまでと違って、逞しい姿と口調で澪が梓に訊ねる。
切り替えの早い奴だな、って思う。
誰よりも怖がりなのに……、
いや、誰よりも怖がりだからこそ、澪は恐怖との付き合い方を知ってるんだ。
怖いくせに、不安になってる梓を安心させてやるために、気丈な姿を見せてるんだ。
くそっ……、やっぱり何も出来てないのは私だけじゃないか……。
もっともっと色んな物を心の中に閉じ込めて、皆の足手纏いにならないようにしないと……!
「あ、はい……! 実は……、あの……っ!」
梓が私の方に視線を何度か向けながら喋り始める。
普段なら一番先に駆け寄るはずの私の足が遅い事が気になってるんだろう。
そりゃ気になるよな……。
私は意を決して、急いで梓の傍にまで走り寄った。
ただし、梓と澪からは少し離れた距離に。
梓はその私の距離をまだ気にしてたみたいだけど、
それどころじゃないと思ったらしく、澪に向けて言葉を続けた。
「今、ムギ先輩に付き添ってもらってるんですけど……、
唯先輩が……、唯先輩の様子がおかしくって、それで……っ!
それで私、先輩達を呼びに……っ!」
「唯が……っ?」
澪が小さく叫ぶ。
私も叫びたかったけど、それはどうにか押し留めた。
この三日くらい、様子がおかしかった唯……。
誰よりも大切な妹を失った唯……。
唯に何が起こったんだろう。
いや、何が起こってたって構わない。
唯に何かが起こったってんなら、私は全力であいつを助けてやるだけだ。
助けなきゃ、いけないんだ……!
澪が私に視線を向ける。
私は澪と視線を合わせ、大きく頷いてから、大声で言った。
「分かった!
戻るぞ、澪、梓!
唯に何が起こったのかは、帰り道で詳しく教えてくれ!」
言った後、私と澪は急いで自分の自転車に乗り直した。
梓は少しだけ安心したみたいで、私達の様子を静かに見ていてくれたけど……。
私の気のせいかもしれないけど……。
その梓の視線はとても……、とても寂しそうに見えた。
657Res/1034.29 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。