419:にゃんこ[saga]
2012/05/11(金) 18:20:18.35 ID:7lmMqyTV0
◎
梓から話には聞いてた事だったけど、
ホテルの部屋に戻って唯の姿を見た瞬間、私は自分の胸が強く痛むのを感じた。
もっと早く気付いてやれてれば、と後悔の心が湧き上がって来る。
でも、後悔してるだけってのは、自分自身で許せなかった。
私はベッドの横で心配そうに唯を見守るムギに静かに声を掛ける。
「唯の様子は……、どうなんだ……?」
ムギが泣き出しそうな表情を私に向ける。
ベッドに横になってる唯と二人きりで不安だったのかもしれない。
私はムギの肩に優しく手を置いてから、口を閉じた。
ムギが話し始めるのを待とうと思ったんだ。
十秒くらい経ってから、少しは落ち着いたのか、ムギが口を開いてくれた。
「うん……、唯ちゃんはさっき眠ってくれた所よ……。
少しうなされてたみたいだけど、今はちょっと落ち着いたみたい……」
「そっか……」
呟いて、私はムギの隣で膝立ちになった。
そうして、ベッドに横になって寝息を立ててる唯の顔を見ながら呟く。
「風邪……なのか……?」
「うん、多分……。
風邪……だと思うよ……。
唯ちゃん……、ずっと気を張ってたみたいだから……」
私の質問には、ムギが自信なさげに応じてくれた。
「薬はのませたのか?」と聞こうと思ったけど、すぐに私は口を噤んだ。
ムギは「風邪だと思う」って言ったんだ。
風邪って確証も無いのに、勝手に薬を飲ませていいものなのか、私は知らない。
気が付けば、机の上には沢山の薬の箱が置かれていた。
箱には英語が書いてある。
当然だ。ここはロンドンなんだから。
封が開いてないのを見る限り、唯にはまだ飲ませてないみたいだ。
勿論、ムギに英語が分かってないからじゃない。
副作用を考えて、服用させるのを自重してるってだけだって事はすぐに分かった。
ムギはずっと私達が病気になるのを心配してた。
私は知ってる。
私と街を回ってる時、辞書を片手に必要になりそうな薬を探してくれてたって事を。
それも私達に病気を連想させないように、隠れて探してくれてたって事を。
……当然だけど、ムギは私達が思う以上に、私達の事を考えてくれてるんだ。
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