464:にゃんこ[saga]
2012/05/22(火) 18:05:47.82 ID:x6fXrDtV0
梓がそれ以上の言葉を躊躇う。
この世界が唯の夢だとしても、その責任を唯一人に押し付ける形にはしたくないんだろう。
でも、梓の言う事ももっともだった。
この閉ざされた世界を想像して創造してるのは、間違いなく唯だ。唯にしか出来ない。
それをどうやってるのか……。
それが分かればこの事態を変える事が出来るかもしれない。
心当たりと言えば、やっぱり唯の頭の怪我の事だ。
唯は目を覚まさないほどの大怪我を頭に負った。
それが唯に何らかの変化を与えたって事は無いだろうか?
でないと、こんな事が起こるはずもない。
私がそれを口にすると、澪が口元に手を当てて小さく独り言みたいに呟いた。
「サヴァン……?」
「……何だ、それ?」
そう私が訊ねても、澪はそれ以上何も答えてくれなかった。
いや、独り言みたいだったんじゃなくて、本当に独り言だったって事なんだろう。
私は口を噤み、澪も気付けば口を閉じていた。
また部屋を沈黙が包むかと思った瞬間、ムギの心配そうな声が部屋の中に響いた。
「ねえ、皆……、私、思ったんだけど……。
この世界が唯ちゃんの夢だとしたら、どうして唯ちゃんはこんなに苦しんでるのかな……?
今の私達の身体は、現実にある身体とは違うんだよね……?
だったら、体調が崩れるなんて、そんな事は……」
「確かにムギの言う通りだ」
応じたのは澪だ。
とても凛々しい表情で、何かを考え始めたみたいだった。
瞬間、私の胸が激しく鼓動し始めた。
澪の凛々しい顔に見惚れたわけじゃない。
いや、多少は見惚れてたかもしれないけど、それだけじゃなかった。
澪が考えている。
真剣に、凛々しい表情で、真相に近付こうとしている。
もうすぐ答えを出すんだな、って思った。
きっと私が辿り着いたのと同じ答えを。
私はその答えを澪が出すのが怖かった。
その答えを出してしまったら、きっと澪は私を嫌いになる。
ムギも梓も私を嫌いになるだろう。
それはとても辛かったけど、自業自得でもあった。
逃げ続けた結果がこの有様だったってだけだ。
悪かったのは……、逃げ続けた私なんだ……。
私は二度深呼吸をする。
拳を握り締め、鼓動する胸を気力で抑える。
澪が何かの答えを出すより先に、私は一番言いにくかった事を言葉にした。
「なあ、皆、聞いてくれ……。
唯はさ、自分が死ねばこの夢は覚めるって、
さっきそういう感じの事を言ってたんだよ……」
「唯先輩がっ?
そんな……、唯先輩が死ぬだなんてそんなの……」
梓が辛そうな声を上げる。
唯の事を心から心配してるんだろう。
それこそ、自分の事よりも……。
でも、それに対して構ってやる事は出来なかった。
私は言葉を続ける。
私にはまだまだ伝えなきゃいけない事がある。
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