550:にゃんこ[saga]
2012/06/12(火) 18:47:27.23 ID:CIyJ1PTT0
「すみません、律先輩……。
私……、私……、変な事を、でも……、でも……っ!
私……っ、この気持ちは本当で……」
梓が震えた声で呟く。
心底怯えた表情で、戸惑っている。
一人になりたくなくて誰かを受け入れようとして、
その結果、自分を失くした上に一人になってしまうっていう矛盾。
私も同じだった。
私だって一人になりたくなかった。
和達を失って、それ以上誰かを失う事になりたくなくて、私は私の想いを殺した。
そうする事でしか、皆と一緒に居られる方法が無いと勘違いしてた。
でも、そんな事をしたって、余計皆に心配を掛けてしまっただけだった。
もうそういう事はやめないといけないんだ、私も、梓も。
私は手を伸ばして、流れる梓の涙を一滴拭った。
「謝るのは私の方だよ、梓。
私だって一人になりたくないし、皆といつまでも一緒に居たいよ。
出来る事なら、永遠に皆の傍に居たい。
でも、さ……、私、思ったんだよ。
唯が体調を崩して、この世界の事について深く考えて、思ったんだ。
梓が私達の手首を包帯で結んでくれたからでもあるかもな。
とにかく、思ったんだ。
『一緒に居る』って事と、『一緒に居たい』って思う事は似てるようで違うんだって。
違うんだよ、この二つは絶対に……」
「『居る』事と……、『居たい』って思う事……?」
「私達が卒業する前の事を思い出してくれ。
私達はいつも部室に集まってた。
それは部活だからでもあるけど、それだけの意味じゃなかったはずだよ。
部活する予定じゃない日でも、誰が呼んだわけでもないのに、
自然と五人が集まっちゃった事も何度もあっただろ……?
口にこそ出さなかったけどさ、私、それが嬉しかったんだよ。
皆が皆と『一緒に居たい』って思ってくれてるんだって思える事が、凄く嬉しかったんだ。
でも……、でもな……、『一緒に居る』って事とそれは違うと思うんだ。
『一緒に居なきゃ』って、誰かや自分に強制されるなんて、
そういうのは嫌だって思うし、悲しい事だと思うんだよ……」
そうだ。
それが私の違和感だったんだ。
皆と一緒に居れば安心出来るし、幸せになれるし、笑顔で居られる。
それはとても嬉しい事だけど……、でも、それに頼り切ってちゃいけなかったんだ。
軽音部で活動して、私達は音楽を繋いだ。
手を繋いだ。
想いを繋いだ。
でも、心までは繋ぎたくない。繋いじゃ駄目なんだって思った。
その事を梓に手首を包帯で繋がれる事で気付けた気がする。
私達は手を繋いでるんじゃなくて、心を繋いでたんじゃないかって。
閉ざされた世界。
和はこの世界の事をそう呼んでいた。
確かにこの世界は閉ざされてる。外の世界に干渉出来ないって意味で閉ざされてる。
でも、そういえば和はこうも言っていたはずだ。
「閉ざされてるのは世界の方じゃなくて、もしかして……」と。
閉ざされているのは唯の夢で、同時に私達の心でもあったんだ。
皆が傍に居なきゃ不安で仕方が無くなってた私達の心の方なんだ。
閉ざされた心。
それがきっと私達がこの唯の夢に迷い込んだ本当の理由なんだろう。
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