554:にゃんこ[saga]
2012/06/14(木) 17:43:34.46 ID:wM9rIEft0
 私達はお互いを繋ぎ止めてた。  
  五人で居なきゃ不安だった。  
  いつの間にか、お互いが傍に居る事を無意識の内に強制していた気がする。  
  離れていたって大丈夫だなんて言葉は嘘だ。  
  傍に居なきゃ……、一緒に居なきゃ……、不安な気持ちは決して消えない。  
  皆にいつか忘れられてしまいそうで怖い。忘れてしまいそうで怖い。  
  それが自然な感情なんだと思う。  
    
  でも、だからって……、傍に居れば、ただそれでいいわけじゃなかった。  
  強制して、心まで繋ぎ止めて、無理矢理に傍に居てもらって、  
  安心するためだけに傍に居て、絆を再確認し合うなんて、悲しいじゃないか。  
  私達の想いの全てを否定してしまうみたいじゃないか。  
    
  私が梓にキスしようとしてたのだってそうだ。  
  私は安心したかった。傍に居て梓の体温を感じたかった。  
  同時に私は自分の体温で梓の心を繋ぎ止めようとしちゃってんだ。  
  梓は優しいから、私達の事を思ってくれてるから、  
  身体で繋がれば、ずっと一緒に居られると考えてたんだと思う。  
  しなくてよかった。  
  躊躇ってよかった。  
  もしも梓が私を受け入れてくれていたら、  
  私はどれだけ後悔しても後悔し切れなくなっていた。  
  元の二人に戻れなくなってた。  
  傍で笑い合えてた二人には、もう二度と……。  
    
  私は梓の頬に自分の手のひらを軽く触れさせた。  
  まだ日焼けしている梓の頬。  
  子供みたいに体温が高くて、手のひらに心地良い。  
  二人の体温を感じ合う。  
  とても嬉しくて安心出来たけど、これ以上の事はしちゃいけないって思った。  
  私はまた涙をこらえている梓に向けて、呟いた。  
  少しだけ自分に言い聞かせるみたいに。  
    
    
  「ごめんな、梓……。  
  今まで上手く言えなくて……、言葉に出来なくて……。  
  でも、これが今の私の本当の気持ちなんだよ。  
  梓が私の気持ちを受け入れようとしてくれたのは嬉しい。  
  すっごく嬉しい。  
    
  でも……、皆のおかげで気付けたんだよ。  
  そういうのはしちゃいけないし、したくない事なんだってさ。  
  勿論、それを教えてくれたのは梓でもあるんだ。  
  梓は私と一緒に居てくれた。私の馬鹿げた想いにも向き合ってくれた。  
  ずっと私や皆を支えててくれただろ?  
  私達はそんな梓の事が大切だって思ったんだ。  
  私はもうそんな梓の笑顔を奪いたくないんだ。  
  今、私達がキスなんかしたら、梓は後で絶対に後悔する。  
  前みたいに笑えなくなる。  
  だから……」  
    
    
  私の言葉が終わるより先に、また梓の瞳から涙が一筋流れた。  
  身体を小刻みに震わせて、流れる涙を自分で拭いながら呟く。 
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