566:にゃんこ[saga]
2012/06/17(日) 17:51:23.44 ID:LMLRxZRo0
「痛っ!」
瞬間、梓から苦痛の声が漏れた。
チョークスリーパーに苦しんでるわけじゃなくて、
私の腕が梓の身体に触れた事自体に痛みを感じているような声だった。
しまった、と私は後悔した。
久々に反射的にやっちゃってたけど、そう言えば梓は……。
「悪い、梓!
おまえ、まだ日焼けが……」
言いながら、私は梓の首に回した腕を慌てて放そうとする。
でも、私の腕は梓の手のひらに柔らかく掴まれた。
放さなくてもいいって事なんだろうか?
私は自分の胸が何故か高鳴るのを感じながら、梓に訊ねてみる。
「……いいのか?
日焼け……、まだ痛いんだろ……?」
その私の言葉を聞いても、梓はしばらく何も言わなかった。
目を瞑って、少しだけ微笑んでいるみたいだった。
十秒くらい経っただろうか。
梓は目を瞑ったままで静かに口を開いた。
「いいんですよ、律先輩。
確かにまだ痛いんですけど……、それでもいいかもって思うんです。
私、今、律先輩に触られてる所がヒリヒリ痛いです。
でも、その分、律先輩の存在を感じられるんです。
私、それが何だか嬉しくて……」
「嬉しい……?」
「はい、嬉しいんです。
私、思うんですよ。それは身体だけじゃなくて、心の痛みもそうなんじゃないかって。
純達、お父さん、お母さん、わかばガールズの皆……、皆の事を思い出すと胸が痛いです。
また泣き出したくなるくらい、とても胸が痛くなります。
今まではその痛さが怖いだけでした。
でも……、律先輩に色んな事を教えて頂けて、思ったんです。
この胸の痛みも、辛さも悲しさも、まだ私の心の中に皆が残ってくれてるって証拠なんだって。
皆が傍に居てくれてるって事なんだって。
ですから……」
そう言って、梓が私の腕の中で微笑む。
清々しいくらいの笑顔。
それは無理をしているわけでも、強がってるわけでもない、心の底からの笑顔に見えた。
痛みも、苦しみも、心の中に皆が残ってる証拠……か。
その考えが正しいかどうかは、私にもはっきりとは言えない。
だけど、痛みから目を逸らして生きるよりは、ずっといい事のような気がした。
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