572:にゃんこ[saga]
2012/06/17(日) 18:01:16.37 ID:LMLRxZRo0
私は一歩進む。
胸を張って、前を向いて、まっすぐに進んでいく。
大目標は出来たんだ。
後はそれに向かって進んでいくだけだ。
……と思っていたら、何故か不意に梓に腕を掴まれた。
何事かと思って振り向いてみると、梓は上目遣いに私を見上げていた。
その頬はこれまで以上に紅潮してるようにも見える。
私はちょっと驚きながら訊ねてみる。
「何だ何だ?
どうしたんだよ、梓?
何か忘れてた事でもあったのか……?」
「えっと……、あの……、さっきの事……なんですけど……」
「さっき……?」
「私、律先輩に「抱き締めて」って……、言ったじゃないですか。
その事で、ちょっと……」
ああ、なるほどな。
あの時の梓は私に縋ろうと本当に必死だった。
私に捨てられないよう、身体ででも私を繋ぎ止めようと躍起になってた。
その事を忘れてほしいって事なんだろう。
私にもそれに異論は無い。
誰だって、動揺して自分でも思いの寄らない行動を取ってしまう事くらいある。
梓が忘れてほしいって言うんなら、ちょっと寂しいけど私も忘れてやるべきなんだ。
私は梓の頭に手を置いて、軽く笑ってやった。
「分かってるよ、忘れてほしいってんだろ?
嘘……はあんまり皆に吐きたくないけどさ、内緒にするくらいなら、まあ、いいだろ。
うん、気にするなよ、梓。
私、あの時のおまえの行動、気にしないか……」
「いえ、そうじゃないんです!
私の言葉……、忘れないで……いてくれませんか……」
「えっ?」
梓に言葉を止められ、私は動揺した声を上げてしまう。
想像とは全く逆の言葉を言われて平静で居られるほど、私は落ち着いた性格をしてないんだ。
でも、どういう事だ?
どうして梓は自分の言葉を忘れないでなんて……。
梓は私の手を取ると、そのまま自分の頭から私の手を離させた。
拒絶……ってわけじゃなく、私と対等に話をしたいって様子に見えた。
数秒だけの沈黙。
顔を真っ赤にした梓は何度も深呼吸をすると、私の瞳を見つめてから、力強く口を開いた。
偽りの無いまっすぐな言葉を届けてくれた。
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