591:にゃんこ[saga]
2012/06/22(金) 18:11:00.98 ID:dCovMAmZ0
◎
五人並んで、ロンドンの街をゆっくりと歩く。
お揃いの水色のワンピースに腕を通して、
自分で言うのも何だけど、何処か古い神学校に通学する女生徒達みたいだ。
仮にも女子大生の身として気恥ずかしい感じもするけど、別に悪い気分じゃなかった。
皆でお揃いの恰好をするのなんて、高校の卒業式以来だ。
久し振りで懐かしくて、何だか嬉しい。
恰好だけじゃなく、皆の心も同じだったら、もっと嬉しいなって私は思う。
ただ同じ恰好をするのはいいんだけど、一つだけ問題があった。
それはやっぱり髪型の事だ。
梓は三つ編みを断らなかった。
普段からまっすぐな長い黒髪を結んでる奴だ。
恥ずかしい髪型ってわけでもないし、三つ編みくらい何でもないんだろうな。
梓の三つ編みは結構似合ってるし、新鮮でいいと思う。
でも、私自身の髪型にはちょっと納得がいってない。
今、私は前髪を下ろして、白い帽子を被っている。
三つ編みを断っちゃった気後れもあって、
唯から受け取った帽子なんだけど、被った後に鏡を見るとどうにも恥ずかしかった。
やっぱり前髪を下ろすのなんて、私には似合わないよな……。
苦し紛れにカチューシャを着けようとすると、それは何故か梓に止められた。
その帽子にカチューシャは似合わないって言うのが、梓の反対理由だった。
いや、まあ、それは私も分からないわけじゃないけどさ……。
仕方が無いから、思い切って前髪を下ろしたままで、
ワンピースに着替えて唯達の前に姿を見せると、唯に笑われてしまった。
私の髪型が笑われたってわけじゃない。
唯は私の被った白い帽子を指差して、くすくす笑った。
唯曰く、「りっちゃん、肉まん被ってるー」との事だ。
いや、この帽子被れっつったのおまえじゃねーかよ……。
怒っていいのか呆れていいのか迷ったから、とりあえず私は唯の頬を軽く抓っておいた。
ちょっと強めにしておいたつもりだったけど、唯は頬を抓られながら何故か笑っていた。
私もそれに釣られて笑ってしまった。
色々と納得いかなくはあるけど、唯がこうして笑ってくれるなら、別にいいのかもしれない。
今、私達が向かっているのは、私達が最初に転移させられた場所……。
私達がロンドンでライブをやったあの公園の広場だった。
向かっているのは、勿論これから五人だけのライブをするためだった。
私と梓は知らなかったんだけど、唯達はライブをするために既に楽器と会場の準備をしていたらしい。
新曲を私達に聴かせたがってた三人だ。
本当なら、もっと早く私達に新曲を聴かせたかったんだろう。
私だって聴きたいし、演奏したいんだから、これから楽器を集める手間が省けて助かった。
どんな楽器を用意してくれてるんだろうって一瞬思ったけど、その考えはすぐに振り払った。
心配する必要は無い。
唯達の事だ。
きっと私と梓にぴったりな楽器を見つけてくれているはずだろう。
そうして、私は歩く。
皆と肩を並べて、五人笑顔で歩いて行く。
私達のライブ会場へ。
前に進んでいくためのライブを開催するために。
大好きな音楽に包まれ、包み合うために。
半分くらいの距離を進んだだろうか。
「あ、そうだ!」と唯が何かを思い出したみたいに小さく叫んだ。
唯の事だから本気で忘れてたんだろう。
私が首を捻って「どうした?」と唯に訊ねてみると、
「ねえ、皆、私ね、ちょっとやっておきたい事があるんだ」って言って、
そのワンピースの何処に仕舞い込んでいたのか、細長くて白い物を取り出した。
一瞬、包帯かと思ったけど、そうじゃなかった。
唯が取り出したのは純白のリボン。
肌触りの良さそうな、優しい感触のリボンだった。
657Res/1034.29 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。