過去ログ - 律「閉ざされた世界」
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592:にゃんこ[saga]
2012/06/22(金) 18:11:33.83 ID:dCovMAmZ0





何となく目にした公園の隅っこ。
私達は腰を下ろして、肩を並べて、少しだけ微笑む。
私達の手首は純白のリボンで結ばれていた。
繋いでいるわけじゃない。
強く結んでるわけでもない。
軽く……、本当に軽くだけ私達五人の手首は結ばれている。
多分、その事に皆安心出来てる。

まだそんな物に頼ってしまっちゃうのかって、情けなく思わないと言えば嘘になる。
手を結ばなきゃ、安心出来ないのかって。
でも、私達はまだそんなに強くない。
私達のこの世界での物語は始まったばかりなんだ。
皆の絆をずっと信じらていくには、自信も勇気もまだまだ足りない。
いきなり絆だけを信じて生きるなんて、そんな事は出来そうにない。
それに、いきなり身の丈に合わない事をしようとしたって、余計酷い目に遭っちゃうだけだとも思う。
過去を無理矢理に捨てようとした私と梓、
過去を縋り付いてでも守ろうとした唯の姿を鑑みるに、無理をしたってろくな事にはならない。
だから、少しずつ……。
私達は少しずつ前に進んでいくべきなんだ。

今、唯が掛けている眼鏡もそうだった。
五人で手首を結ぶ前に、唯は言っていた。
「眼鏡を掛けてると、和ちゃんが傍に居てくれてる気がするんだ」って。
確かに眼鏡は和のトレードマークだ。
眼鏡で和を連想するのは理に適ってるし、そういう意味で唯も前まで赤い眼鏡を掛けてたんだろう。
赤いアンダーリムの眼鏡……、和の物と同じ種類の眼鏡を。
でも、今の唯はその眼鏡を掛けていなかった。
太い黒縁の古臭い眼鏡。和の眼鏡とは似ても似つかない眼鏡だ。
私がその理由を訊ねるより先に、唯は照れた顔で言葉を続けていた。


「でもね、和ちゃん……、
きっと「そういうのはやめなさい」って言うと思うんだよね……。
和ちゃんが本当に傍に居てくれたら、そういう風に言うと思うんだ……。
「私の事ばかり考えるのはやめなさい」って、きっと……。
でも、私、和ちゃんにはまだ傍に居てほしいし、忘れそうになるのが怖いから……、
だから、この眼鏡なら和ちゃんも許してくれるかも、って思ったんだよね。
和ちゃんは私が頑張るのを待っててくれる子だったから、
のんびりゆっくりでも私が前に進むのを嬉しく思ってる子だったからね……、
だからね……、いつか眼鏡無しでも和ちゃんの事を信じられるために、今は……」


唯が最後まで言う前に、私は唯の手を強く握って頷いた。
強くなろう。皆で少しずつ。
まだ弱くて情けない私達だけど、未来を信じていくために進むんだ。

そうして、五人で肩を並べ、空を見上げる。
右端から、梓、澪、私、唯、ムギの順で手首を繋いで語り合う。
色々な事を語り合っていく。
今まで言えなかった事、隠してた想い、これからの事、色んな事を……。

澪が自分が強がれた理由を告白する。
ムギがほんの少し憶えていた私達の大怪我について語る。
唯が眼鏡だけじゃなく、憂ちゃんと同じ髪型にしていた理由を言う。
梓が私達の手を包帯で繋いでしまった理由を喋る。
私が今まで皆に迷惑を掛けてしまった事を謝罪する。
隠していた想いを、お互いがお互いに伝えていく。
少しずつ、お互いの想いを理解していく。
本当に少しずつ。
だけど、確実に……。


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