過去ログ - 律「閉ざされた世界」
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607:にゃんこ[saga]
2012/06/24(日) 17:48:16.40 ID:zgF1iagU0
唯は頬を膨らませて言ったけど、その目は笑っていた。
澪も少しだけ笑っていた。
まあ、それは冗談だけど、と前置きしてから、澪がまた喋り始めた。


「全身で生きてるってのは本気での言葉だよ、唯。
人間はさ、脳からの指令だけで生きてるわけじゃない。
身体中で色んな事を感じて、身体中に色んな事を記憶してるんだ。

『ドナーの記憶』って知ってるか?
嘘か真か、臓器移植した患者がドナーの記憶を夢に見る事があるらしいんだ。
つまり、人間は脳だけじゃなくて、全身で色んな物を考えてるって事なんだよ。
おまえが目覚めるためにはいくらでも……、方法はある。
私はそう信じてるんだ」


「私達もその方法を探すの手伝うから!
それまで私、絶対絶対! 元の世界に戻らないからね!」


叫んだのはムギだった。
眉を吊り上げ、誰とも結ばれてない方の手を握り締める。
心強いな、と私は思った。
本気になってくれたムギの姿は、どんな時だって本当に心強い。
私ですらそうなんだから、唯の心強さは私の何倍になるんだろうな……。


「そういうこった」


私はそう言って、唯の頭をくしゃくしゃに撫でてやる。
唯は瞳を俯かせて、震える声で、それでも最後まで言った。


「皆……、ありが……とう。
私……、見つけるから……、皆と元の世界に戻れる方法……、絶対……。
あり……、ありがとう……!」


そうして、皆でまた結んだ手を繋ぎ合った。
この温かさと想いを忘れないために。
遠く離れる事になったって、また傍に居たいと思い続けられるために。
口約束はしない。
強制もしない。
昔みたいに、自分達の意志で自分達のした事をした結果、
皆で集まれて、皆で笑顔を向け合えるようになるために……。
私達は音楽で結ばれた仲間。
音楽の絆のせいでこの世界に閉じ込められて苦しんで、
それでも、皆の傍に居れて嬉しかったし、前に進めるようになった。
願わくはこの夢から目を覚ました時も、皆でこの絆を感じられていられますように。
この世界での思い出が、夢みたいに何処かに消え去ってしまうとしても……。


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