過去ログ - 律「閉ざされた世界」
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633:にゃんこ[saga]
2012/06/30(土) 17:54:32.19 ID:zmR1v/Ro0
「あの風……、結局何だったのかな……?」


不意にムギが首を傾げながら呟いた。
これまでみたいに風を怖がってるって感じじゃなくて、純粋に疑問に思ってるだけみたいだった。
言われてみれば、私としてもそれは大いに疑問だった。
この世界が唯の夢だとしたら、あの風自体には何の意味も無い事になる。
大体、あの一陣の風が吹いた時には唯は元気だったはずだし……。
私と梓がムギに続いて首を捻ってみると、澪がその疑問に応じてくれた。


「あの風は多分、初期設定ってやつなんじゃないかな」


「初期設定?」


私が訊ねると、澪は大きく頷いた。
一息吸ってから、少し自信無い様子で続ける。


「これもこの世界が唯の夢だったらって前提の話なんだけどさ、
あの夏休みの日にさ、とても強い風が吹いたのは皆憶えてるだろ?
それくらい印象に残る強い風だったんだよ、私にとっても、唯にとっても。
でも、それは単なる強い風だった。
私達をこの世界に連れてくる原因の風ってわけじゃない、単なる印象深い風だったんだ。

その後、何が原因かは分からないけど、私達は大怪我をする事になった。
それで唯が私達をサヴァン能力で自分の夢の中に引き込む事になったわけだけど、
唯はそのきっかけとなる現象をあの風っていう設定にしたんじゃないかって思うんだ。
病院にお見舞いに来てた私達が、何の前触れも無く唯の夢に入り込むなんて不自然過ぎるだろ?
いや、まあ、突然人が消えちゃう事自体が不自然って言われたら、その通りなんだけど……。

でも、少なくとも、病院で前触れも無く人が消えちゃうよりは、
私達がライブ当日に待ち合わせをしてた時に、謎の強い風が吹いて人が消えたって方が自然だろ?
少なくとも唯はそう考えたんだと思う。
『強い風が吹いて生き物の姿が消えてしまった世界』。
それがこの唯の夢の初期設定だったんだよ」


「なるほどな……。
私達がこの夢の世界に適応しやすいように、
その設定を私達の記憶に植え込んでたわけか。
澪の言う通り、病室でいきなり生き物が消えちゃうより、
強い風のせいで生き物が消えたって話の方が少しは自然だもんな。
それで、その時間設定がライブの後じゃなくて、ライブ前だったのはきっと……」


私はそれ以上の事は言わなかった。
言わなくたって、私も唯も皆も分かってた。
わかばガールズとのライブの成否は私もまだ思い出せてないけど、
とにかく唯はもう一度私達とライブをやりたかったんだろうって事は。
私だって唯ともう一度ライブをしたかったし、
今ライブをやってやれたわけだけど、やっぱり少し違っている気がしていた。
ライブをやるなら、私達が揃うなら、それは元の世界で。
どんなに辛い事が待ってたって、私達は現実の世界で歩いていきたいんだ。
梓との事を考えるのも、元の世界の方がお互いにいいと思うしな。

私は唯の首に回していた腕を放して、レジャーシートの中央に立った。
一つ深呼吸をして、皆と一度ずつ瞳を合わせる。
澪の凛々しい瞳。
唯の照れたような瞳。
ムギのまっすぐな瞳。
梓の何処か潤んだ瞳。
全員の瞳を目に、脳に、胸に、心に焼き付ける。
忘れない……、どんな事があっても……。
私は拳を握り締めると、皆に向けて宣言するように言ってみせた。


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