90:にゃんこ[saga]
2012/02/07(火) 20:12:38.10 ID:ory16CjK0
◎
白い校庭を梓と二人で歩く。
とても白い校庭、白い町、白い世界に私は目を細める。
白い世界……と言っても、実際に白いわけじゃない。
南中に近いくらい昇った太陽の光が、眩しいくらいに地面に降り注いでるだけだ。
そんな事は分かってるのに、
私は自分が白い世界に迷い込んだって感じの錯覚を振り払えない。
電灯が点いてないだけ、生き物の気配がまるでしないだけで、
周りの景色がこんなにも違って見えるなんて、こんな事になるまで思ってもみなかった。
こいつはどう感じてるんだろう、と少しだけ隣に視線を向ける。
まだまだ幼い感じの服を着て、ツインテールの髪型をしている後輩。
背が低い事も手伝って、その姿はとても高校三年生には見えない。
でも、きっと心の中は私より大人びてるんだろう、軽音部現部長の梓。
梓の言葉通り、今の軽音部は去年の軽音部より、ずっとすごい部に成長してるんだろうと思う。
手が掛かる後輩だった梓が今では立派な部長を務めてるなんて、
何だか嬉しくて、誇らしくて、くすぐったくて……、でも、同時に寂しい。
嬉しくて、寂しかったから、私は前みたいに梓に叱られたくなった。
部長になっても本質は変わってない梓の姿を見たかった。
『天使にふれたよ!』の歌詞みたいに、私達の変わらない居場所を感じたかったんだ。
帰りたい場所を再確認したかったんだと思う。
今は後悔してる。
梓に辛そうな顔をさせてしまったのもそうだけど、
さっき梓に案内されて、私達の三年の頃の教室を見せてもらって、より一層後悔した。
ほとんど何も変わってなく見える私達の教室……。
でも、少しずつ変わってる私達の教室だった部屋……。
張り紙の位置や、席の数や、机に掛けられてる荷物や……、
そんな色んな事がやっぱり少しずつ変わってたんだ。
私達の教室はもう無いんだな、って思った。
私達の教室を案内してくれた梓の表情からは、何も読み取れなかった。
その時にはもう辛そうな顔や寂しそうな顔をしてはいなかったけど、
梓が思ってるんだろう本心を感じる事も出来なかった。
一緒に居た時は敏感に気持ちを感じ取る事が出来てたはずなのに、
今では梓の奥底に隠された本心を読み取れなくなってきてるみたいだ。
ほんの少し離れるだけ。
ちょっとした別れを経験するだけ。
再会すれば、いつだって元の私達みたいに笑い合う事が出来るはず。
そう思えたから涙を見せずに卒業出来たのに、それは私の勝手な思い込みだったんだろうか?
短いはずだった四ヶ月という時間。
その時間は私達の想像していた以上に長い時間だったのかもしれない。
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