過去ログ - とある白虹の空間座標(モノクローム)
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25:作者 ◆K.en6VW1nc[saga]
2012/01/22(日) 00:22:57.70 ID:fjIUU0KAO
〜8月11日〜

ザーッ、ザーッと砂浜に寄せては返す細波が少女の身体に纏わりつき、撫で回し、絡みつく。
霞行く空から登り行く餓えた太陽が、鳴蜩の限られた命数を死に急がせるような陽射しをもたらし――

白井「………………」

朽ち果てた灯台が墓標のように、錆び付いた風車が十字架のように見下ろす浜辺に白井黒子は打ち上げられていた。
その手にラピスラズリがあしらわれたオイル時計……手にしたまま意識を失いながらも一命だけは取り留めて。

白井「………………」

空を舞うウミネコが鳥葬の前触れのように騒ぎ立て、オルガヌムを奏でて嘲笑っていた。
繋ぎ止める錨もなく、乗せるものもいない箱船が渚を揺蕩い、湾内を行ったり来たりを繰り返す。
早い潮が渦巻き、高い波が逆巻き、上がる飛沫が白井の頬を濡らす。そこで少女はうっすらと目蓋を開けた。

白井「…………!?」

目覚めた現実は、終わらない悪夢(ゆめ)の続き。左手薬指に残った歯形とその痛みだけが確かなものだった。
右目を左側へ、左目を右側へ、それぞれ凝らすも――そこには寒々しい夜明けと果てすら見えぬ水平線。
長時間海水に浸かり血の気を失った青い唇がわなわなと震え、彼女に吸われた胸に氷柱が落ちる。

白井「オ゛……エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛!!」

吐き出す海水と胃液に入り混じってすえた匂いを放つアメリカンクラブハウスサンドの残骸。
吐いても、吐いても、吐いても吐いても吐いても吐いても吐いても吐いても吐いても吐いても――
悪阻にも似た嘔吐感。さりとてそれは生体の反応というより、生きる事を拒否するようなそれ。

白井「あ……あ、ああ……!」

幻想(ゆめ)から覚めた目、幻想(きぼう)を取りこぼした手、幻想(つばさ)を背負えぬ背中。
言葉にならず、口を歪めど声に乗せるは嗚咽にも似た唸り声だけ。さながら声を失った人魚姫のように……
噛んだ砂と共に軋みを上げる奥歯でさえ押さえられぬ滂沱の涙が、渇いた砂浜に落ちては消える。

白井「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

朝と夜の狭間、暁天と夏雲の境目で人魚姫は歌う、唄う、謳う、謡う、唱う、詠い続ける。
犯した過ちに、失われた体温に、消えた微笑みに、残された命に、背負いきれぬ罪に人魚姫は歌い上げる――




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