192:首を絞めるのに最適なもの (お題:合成繊維) 4/5[sage]
2012/04/11(水) 01:52:16.62 ID:cvtayWf6o
「ねぇ、触ってもいい?」
少女はそう言いながらも、すでに先ほどの繊維に手を伸ばしている。
「……かまわないよ。 もしよかったら上げてもいい」
特に触っても毒性はないはずだ。それにゴミを処理してくれるなら好都合だ。
「やった! ありがとう!」
少女は白い糸を手に取り、マジマジと見つめた。その目はまるで宝石を目の前にしているかのように輝いていた。
この少女のことはどうでもいい。
しかしもし、この子が私と同じように創造の快楽に溺れてしまったら、もしそれで取り返しの付かない失敗をしてしまったら……。
そのきっかけを作った私にも責任はあるのだろうか。
「ねぇおじさん! 私もおじさんみたいに、こんな風に物を創る事って出来るかな!?」
少女は問いかけた。このままでは私と同じ過ちを犯してしまうのではないか。そうさせないのが私に出来る些細な償いになるのではないか。
そんな考えが浮かんだ。
「あぁ、創れるよ」
少女は希望の籠った曇りない笑顔になった。
「でもね、ただ自分がやりたいことをやるだけじゃだめだよ。 周りの人が『幸せ』になれるように、いつも考えながらやっていかないといけない」
少女は首をかしげた。
「それって難しいこと?」
「そうだね、おじさんには出来無かったよ……」
少女は、ふーんと言って、すぐに手元の繊維に目を落とした。まぁ少しこの子には早い話だったか。
その後も私は繊維を合成し続けた。様々な試薬の組み合わせ、配合の割合、加熱や冷却の条件、大量の失敗作が積み上げられた。ノートのバツ印も増えた。
失敗作の山は、少女のおもちゃになったようだ。彼女は2,3日に一度、この研究室にやってきて、めぼしい繊維があれば持って帰る……。
そんなことを繰り返していた。
2週間ほどたっただろうか、ついに首を吊るのに申し分ない合成繊維が完成した。
強さ、しなやかさを併せ持ち、肌さわりも絹のようになめらかで、純粋な白色をしている。
あとはこれを結い合わせ、ワッカを作り、そこへ頭を通すだけだ。
それですべてが終わる……。
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