292:日溜まりの好きな幽霊(お題:家族) ◆QVgBgKGhEs[sage]
2012/05/06(日) 14:46:30.47 ID:/MdL4G3AO
あれと取り違えたらクロも不服だろうな、と考えると笑いが漏れる。何だか気が抜け、一息つ
いて立ち上がると、振り返った。
すると、客間の引き戸が微かに開いている。猫一匹、やっと通れそうなくらいに。
それを目にした瞬間、時間がぶれる。その風景は、私を『クロが生きていた頃の時間』に連れ
戻す。ほんの一瞬だけ。
気が付くと、私はいつもの時間に居た。けれど何処か暖かい気持ちに包まれ、私はまた息を漏
らした。クロの匂いがするが、それが思い出のものなのか今現在の確かなものなのか、私には分
からない。単に戸を閉めきらなかっただけなのか、それとも、果たして。
*
祖父が胡座をかいて新聞を読んでいる。縁側で、暖かい日差しの中。クロはもういないのに、
座布団は半分空いている。
その後ろ姿を見掛けて足を止めていると、祖父は私の視線に気付いたのか、振り返ってばつの
悪そうな顔をした。
「何か、座りが悪いんだよ」
――墓参りにでも行くか。頭を掻き、そう呟いてそっぽを向いた。
歯車は回り続けている。クロはそれを外から眺めているのだろう。きっと、暖かい日溜まりの中で。
―了―
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