過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)
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304:ひだまりスケッチ(お題:日溜まり)1/4[saga]
2012/05/06(日) 17:57:47.74 ID:qRXKXpcF0
>>295さんお題ありがとうございます! 書きあがったものを投下させていただきます。


その男は十五年の懲役を終えて、釈放された。
彼は冤罪で牢獄に放り込まれたと訴えたが(そしてそれは事実だった)、しかしそれを証明する決定的な証拠もなく、すんなり彼に有罪判決が下されてしまい、刑が執行されてしまった。最高裁まで争ったが、現実は無情だった。

彼はその刑務所での十五年をただただ、ひたすらに耐えきった。
刑務所内の様々な派閥にいじめられ、時には助けられ、時には仲良くなり、こっそり手に入れた酒を飲み合ったりして、苦しくもあったが決して死にたくなる程の地獄ではない時間を過ごした。苦い思い出も、楽しい思い出もその刑務所内では確かにあったのだ。

そうして彼は渇きながらも絶望ばかりではなかったその刑務所を出た。
しかし五十三歳を迎えた私が釈放され、外の世界へ踏み出したところで私にとって今更この世界で何をすることができるだろう、という疑問が彼の中で湧き上がらずにいられなかった。

自分は(冤罪とはいえ)殺人罪で刑務所に入れられていたのだ。
そんな危険極まりない奴に、どのような人物、組織が仕事を与えると言うのだろう。既にして社会的に私は死んでいるのだ。それなのに娑婆の世界に戻されるだなんて、ある意味これが一番の無情ではなかろうか。どうせ働くことは出来ない。せめてコンビニのバイトか、出来て工場の派遣ぐらいだろう。果たして、ここに戻ってきてまで私は生きる意味があるのだろうか。彼は刑務所の外に出てから、ずっとそのようなことを悩んでいた。

刑務所を出てから一か月、彼は家の中で怠惰に過ごす、無為の日々を続けた。
食は一日一食で、たまに廃棄されたコンビニ弁当を拾えれば幸運と言う食生活だった。

そんな哀れな日々の中、彼はふと散歩に出かけることを決めた。
近所の公園の付近をぶらりと歩き回るだけだったが、しかしそれはいつになく穏やかな時間だと彼には感じられた。
公園の中に入りベンチに座りながら、何をするともなく池を眺めていたら、ふと一匹の猫が彼の足元に寄ってきて、彼の足を舐めはじめた。白と茶のまだら模様が特徴的な、小さい猫だった。




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