過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)
1- 20
359:魂の行き先(お題:ロボット)[sage]
2012/05/16(水) 17:52:56.01 ID:Et6qCWgAO
 月が陰った真夜中、船は孤独に黒い海をひた走る。その甲板を、初老の男が見回ってい
る。作業服と同じエンジ色の作業帽を目深に被り、その鼻下には白い髭を生やしている。
懐中電灯で光を走らせながら、気怠そうに歩く男――名をトルブと言う――は、甲板をぐ
るりと一回りして、船橋の入り口で足を止めた。煙草を食わえて火を付けると、途端に紫
煙は船尾に流されて行く。
 本来の巡察当番たる相方の同僚は酔っ払って眠りについている。貧乏クジだ。酒飲みの
尻拭いは、素面の人間がするしかない。そのことを思い巡らせ、感情を払い出すように舌
打ちを鳴らした。
 宵闇の海は穏やかにざわめき、船はその静かな秩序を真っ直ぐに貫きながら進んでいる。
向かう島には、明日の昼には着く筈だ。
 考えるともなく思考を移ろわせていると、背後から遠く、耳障りな異音が聞こえてきた。
トルブが振り返ると、通路の暗がりから“それ”は現れた。金属質な足音を立て、不自然
に身体を揺らしながら。
『ここは――』
「動くな」
 形こそ人間の五肢を模してはいるが、筋肉にあたる機構は剥き出しで、関節も動く度に
軋んでいる。鉄と配線で自律して動く、機械。
 言葉を発そうとしたそれを遮り、トルブは短銃を両手で構える。“それ”はぎこちなく
異音をあげながら両手を上げて首を振った。
『ワタシは――』
「動くんじゃない」
 安全装置を外し、改めて照準をつける。握把には汗が滲んでいる。
「識別を言え」
『AD−001−2557、ええと、管理コードはHum−329、名前は――』
「必要ない」
 視線を反らさず、片手だけをゆっくりと胸ポケットに持って行き、一枚の折り畳んだ紙
を取り出す。紙片を開いて一瞬だけ視線を走らせると、トルブは口を歪ませて鼻を鳴らした。
「とんだポンコツだな。墓場よりは博物館の方が似合いじゃねえか」
『墓場』
 文字通り機械的に、ノイズ混じりにその単語を復唱した“それ”は、両手を上げたまま
微かに俯いた。
『そうか、ワタシは』
 トルブはそのまま紙をしまうと、今度は作業用の安全帯に提げた小型の端末を取り出し
て管理コードを入力する。
『死んだんだ』
 この型番に武装はない。一致を確認し、トルブはようやく銃を下ろした。しかし、“そ
れ”は微動だにしなかった。呆然と、立ち尽くしているように。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
1002Res/642.94 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice