過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)
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361:魂の行き先3/5(お題:ロボット)[sage]
2012/05/16(水) 17:55:09.39 ID:Et6qCWgAO
 何も答えず、トルブは時計を見る。巡察の時間を持て余すのはいつものことだが、今日
は針の進みが殊更鈍い。
『御子息はまだ幼いですし、農場経営の規模は縮小せざるを得ませんでした。ワタシは旧
 式で、他の仲間に比べてどうしても維持費が掛かります』
 死の理由など、人の数だけある。機械も同じだろう。聞き流しながら、トルブは目を細
めて甲板の闇を見据えている。鳴る潮風が、耳に煩い。
 そのまま沈黙がどれ程流れただろう。やがて、“それ”は形だけ人間を模したその顔を
上げて、トルブに向き直る。
『人は、神を信じています。それをワタシは、得体の知れない死への恐怖と不安を和らげ
 る為と認識しています。生と死、その向こう側にある世界の創造』
 トルブは“それ”を横目に、首を傾けた。信心は持ち合わせるには、彼の人生に救いの
手は少なすぎた。今彼の手元にあるカードは、生きていること、それだけだ。
『人はそれだけで、死を受け入れられるのですか』
「知るか」
 吐き捨てるように、一言。
 だが“それ”は表情を変えず――変えられず、ただトルブを見つめて押し黙っている。
「俺は人類の代弁者でも、それこそ全知全能の神でもない」
 人型の、旧式のポンコツ。自嘲が頭を横切り、トルブは鼻を鳴らす。
「そんなことを考えるのは、死ぬ間際で十分だ」
『ワタシは今まさに死のうとしています』
 その言葉で、沈黙が訪れる。音は風に流され、闇へと吸い込まれ。トルブは“それ”と
自分の姿を、薄く重ね合わせる。
「だが、お前の疑問には俺は答えられん。俺は神を知らないし、信じてもいない」
『アナタは死が怖くないのですか』
「実感のないものに想像力を働かせているほどの暇はないんでな」
 “それ”は頷き、再び外海に目を向ける。
『ワタシも、同じでした』



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