過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)
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439:滑稽な西日1/8[sage]
2012/05/31(木) 01:25:23.89 ID:utSI55PFo
 子どもは、もともといい子になりたいそうだ。その証拠に、教科書を書くほどの知識人がこう書いている。

 『生まれたときから「わがまま」「犯罪」「非行」といった問題を起こす子どもたちはいないのです。』(「社会的養護」小池・山縣、2012)

 そうだとしたら、犯罪者個人が悪いわけではなくて、犯罪者を生み出してしまった周囲が悪いことになる。細かく言うならば社会教育、あるいは環境。
 僕はあいにく、教育も十分過ぎるほど受けているし、環境だって、放射能を別にすればずいぶんと住みやすい地域に住んでいると思う。
 ラスコーリニコフだって教育を受けたし、環境だって整っていると言えば過ぎるけれど、食べ物には困らなかった。
 しかし結局のところラスコーリニコフは老婆を殺した。
 僕は読書感想文の題材として、十一歳の夏にラスコーリニコフの長すぎる苦悩を懸命に読んだ。読み終わった後は、形容しがたい脱力感で文章なんか書くどころじゃなかったのを覚えている。けれど、僕は読みきった。そうしないと、山田の分の読書感想文が書けずに、また一つ僕を許してくれない理由が増えるから。
 …………

 ∇

 私は、ぬるいビールを飲みながら大学ノートを捲っていた。そして、半開きの窓の隙間から流れ込むそよ風を待っていた。
 窓の外は長閑(のどか)に照っていて、西日の明かりが入り込んだり、隠れたりしている。庭に植えてある名前も知らない木々がそよいで揺れて、日光を邪魔しているせいだ。私がノートから目を上げたのも、日光が木々のゆらぎに遮られて読書が邪魔されたからだった。
 5月の夕方は日を重ねるほど長くなってゆく。
 午後4時といえども、まだ外は明るく、気温も下がる気配はない。穏やかな風が心地よく感じるぐらい麗らかだったから、引越しの最中に読書に耽っても仕方がないでしょう?
 そう、私はたった今、引越しの最中だった。


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