過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)
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504:350[sage]
2012/06/09(土) 00:57:22.19 ID:MbaXc1Hmo
再転載:或る白い歌姫(粗筋)

生まれつき、原因不明のメラニン色素不足を患っていた少女。

彼女は利発で声が奇麗で歌が上手く、ピアノとギターが好きだった。
しかし国が戦乱に巻き込まれ、両親を失い、同じ境遇の子供達と共に、国外脱出の為の逃亡生活が始まる。
銃火をくぐる生活の中、彼女は悲しみ怯える仲間を励ます為に歌を唄った。
時には仲間達の最後尾に立ち、銃を取って戦ったりもした。

そして国境を越える日。
平和な国への亡命を決行する日。
敵か味方かも判らない相手が銃撃してくる中、彼女はいつもの様に最後尾から、仲間の子供達が国境のゲートを走り抜けて行くのを、両手にアサルトライフルと言う姿で援護していた。

最後の子がゲートを抜け、向こうの国の警備兵に保護された。
それを見届けた彼女は、威嚇射撃を一連射すると、ゲートに向かって駆け出した。

その彼女の至近距離で、化学ガス弾が炸裂した。

蹌踉めきながらもゲートを抜けた彼女だったが、身体に痺れを覚え、そして喉を、声を、ガスで痛めてしまった事を悟った。

彼女は泣いた。
楽器を弾く指が、痺れてうまく動かない。
声は酷く擦れ、歌はおろか話すのも辛い。

亡命の事務手続きは淡々と進んだ。
一緒に脱出した子達は一様に安心感を表情に出していたが、彼女一人だけは暗い顔で塞ぎ込んでいた。
いま、彼女の心の中には、真っ黒い闇の固まりが幾つも生じていた。
「君は取り敢えず、国際赤十字支部付属病院に入院してもらうよ」
そう言った戦災難民保護センターの職員の言葉も、右から左へと抜けていった。

『両親を失った』
『故郷を失った』
『沢山の、故郷の人達が死んだ』
『楽器を弾く手で、武器を使った』
『仲間の為とは言え、人を殺してきた』
『何人かの仲間の命を、救えなかった』

『歌う声を失ってしまった』
『楽器を引く手を失ってしまった』

彼女は、赤い瞳を伏せたまま、ただ悲しみに沈み込んでいた。


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