過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)
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732:海に還る(お題:五百円) 7/8 ◆IL7pX10mvg[sage]
2012/07/29(日) 23:00:56.32 ID:EC3QnlO+o
「やっぱりまず謝らなくちゃね」
 落ち着いた声で、彼女は言う。
「これまで、私があれこれ振り回してきたこと、謝ります。ごめんなさい」
「そんなのいいのに」
「こうしないと、私の気が済まないの。自分勝手でごめんね」
 彼女は立ち上がって少し歩いた。そして振り向いて、僕を見る。
「きっとさ、私たちって、私たち以外が必要なんだよ」
 ゆっくりと喋ってはいるが、もう言いたいことは彼女の中で出来上がっているのだろう。
「私にはもっと知恵が必要だし、君には主体性がもう少し必要だと思うんだ。これまでの私
 たちは、とても面白かったけど、やっぱり私はもっと上を目指したい。これからも私たち自
 身に変化が出続けるから、それも無駄にしたくないしね」
 そこまで言って、彼女はもう一度こっちを向いた。
「私たちは、これから新しい出会いをたくさんしていくわけだけど、もし、それでもお互い
 がいいパートナーだと思えるようなら」
 確認するように、彼女は続けた。
「その時はまた、こうやってコンビ組もう」
 これはきっと、彼女の本心なのだろう。彼女はこれまでの経験から自分の至らない点を感
じ取っていたのだ。彼女はそこを自ら補おうとしている。そして、僕自身の成長も期待され
ているのかもしれなかった。
 僕らは、来る日のために、あえてそれぞれ一人で経験を積む。そして、一周りも二周りも
大きくなってもう一度出会えたらいい。そういうことなのだ。
「ねえ、この雰囲気が壊れないうちに、握手」
 おもむろに右手を差し出す彼女。僕はその手を取って程よく握り返した。彼女の手は暖か
くて、まるで手のひらの間で何かが燃えているかのように感じられた。


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