857:少年よ五百円玉を抱け 1/10 ◆1ImvWBFMVg
2012/08/01(水) 07:41:58.11 ID:idTh5FcP0
いろいろあり過ぎてなにから話せばいいか皆目見当もつかない。だが、下手に整理して
みたところで、果たしてそこに筋など通るのだろうか。そのような出来事でもなかったの
ではないだろうか。
まあいい。およそ数ページにおよぶ長々しい奇譚をここで語るに当たり、ありのままぶち
まけてみると言うのもまた一興かもしれない。とはいえ事の起こりぐらいははっきりさせ
ておくべきだろう。
あれはたしか。あやふやな記憶を頼りにこうして記憶をさかのぼるだけで、ずいぶん遠く
にきたような錯覚を覚える、そんな体験をする前の事。
そう。きっかけは五百円。あの何の変哲もないただの小銭からだった。
その少し汚れた硬貨が自分のポケットに入り、機会をうかがうように忍び込んでいたあ
る日の午後。
そんなこととは露知らず、能天気にあくびをしながらアルバイトに出かける自分の姿が玄
関前に現れたのが三時半。じつに気だるそうに駅に向かう姿勢、これは日本人的な勤勉さ
に対する一種のアンチテーゼなのだろうか。
街の到る処には学校帰りの小・中・高が群れをなし大移動を起こし、あちこちに井戸端
やらしゃべり場と呼ばれるノマドが群雄割拠している。
そんな人混みをひどく優雅にふらつき歩いている自分は、いきなり募金箱を抱えたボラ
ンティアの女の子と目が合って、文字通りカチンコチンに固まっている所だった。
見つめ合った状態のまま、十秒間は立ち尽くしていただろうか。一体なぜ? そんな疑問
が頭の中で縦横無尽に飛び交う。そんな中、少女の潤んだ瞳が物言いたげにただ見つめて
くる。
やがて自分の思考は一つの希望的観測を導き出す。これはもしや、もしかしたら例のあの、
アレではないのか。好みの異性として見られている時の特殊なシチュエーションではない
だろうか。そう、噂でしか聞いたことのない、一目惚れとか言う代物。
「あの……恵まれない者達に愛の手を」
もちろん分かっていた。分かってはいたが、ただひたすら縋り尽きたかった。希望すら
抱けなくなってしまわぬようにというそんな必死の抵抗、それぐらいは許してほしい。
「あの……」
さて募金である。そのまま通りすぎるという選択肢もあるにはあった。だが自分には出
来なかった。何故ならそこには抗えない魅力があったのだ。
なんと少女の面影は、まさしく自分の理想に描いて日々を暮らし、夜は夜で身もだえてい
た、可憐な美少女そのもの理想像だった。そう、一目惚れしたのは自分の方だった。
「ぜひご協力させてください」
有無を言わせず、右手をポケットのなかに入れた。どれくらい寄付しようか、今の勢い
1002Res/642.94 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。