過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)
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965:その命、尽きるとき(お題:女神) 2/10 ◆AWMsiz.p/TuP
2012/08/12(日) 23:27:43.50 ID:j3F87tL90
「そりゃあ寂しいなあ。昔はほれ、うちの隣の空き地で毎日野球しとったのに。わしの家の窓ガラスを一番割ったのは坊主だからなあ」
「その節はどうも申し訳ありませんでした」
 僕は冷蔵ケースを開けて、食べ残しのソーダアイスを取り出そうとした。ごそごそと漁っていると、隅っこから半分だけのアイスが三
本出てきた。どれもなんとなく心当たりがある。
「暇だったらよう」茂さんはどこか遠くを見ながらいった。「一つ頼まれてくれんかい」
「頼み、ですか?」
 うん、と茂さんは顎を引いた。その瞳はまだ遠くを見ていた。空を見ているでも、木に止まった蝉を見ているでもないような気がした。
もっとおぼろげな、例えるなら夏のそれ自体を眺めているようなそんな視線だった。
「内容によります。できれば、窓ガラスの弁償は勘弁して欲しいです」
 僕は三本の中から適当に一本取り出して口に入れた。冷蔵庫の中では菌は繁殖しないからアイスには賞味期限は無いと、誰か偉い人が
いっていた気がする。
 はは、と茂さんは笑い声をあげた。
「それはもう許したから安心せい」
「そうなんですか」
「ガラスを割った後、しっかりと謝りにきたじゃあないか。まあ、そのあと何枚もガラスを割られたから、まったく反省はしていなかった
ようだが。だけどちゃんと謝りにきた。謝りもせんで逃げ出しとったら、そのぶんのガラスは弁償してもらっとるわい」
 どう答えていいかわからず、僕は茂さんと同じようにぼんやりと夏を眺めた。ありがとう、でもごめんなさい、でもないような気がす
る。小学生の一人が、俺クジにしよう、と言い出した。やめておけ、と喉から出かかった。長年通っている僕でも、ここのクジが当たって
いるのを見たことがない。
「それで、頼みというのは?」
 実はな、といって茂さんは地面で煙草をもみ消すと、ポケットから携帯灰皿を取り出して吸殻を入れた。
「女神様に会いたいんだ」
「……女神様。それは僕も会ってみたいです」
 やったー、という少年の声が聞こえてきて、僕はぎょっとした。どうやら僕が未だお目にかかったことのない女神様に、少年は出会う
ことができたらしい。振り返って扉から中を伺ってみると、なにやらマシンガンのような形をした水鉄砲を片手に持っていた。当然、他
の者は羨望の眼差しを向けている。もちろん僕もその一人だ。
「柴田めぐみ」
「はい?」
「柴田めぐみという女性を探して欲しい。二十八年前に、『銀河』というスナックで働いていた女だ。当時三十歳くらいだったから、今
は六十歳前後か。いや、水商売の女なんぞ平気で歳をごまかしよるから、正確なところはわからん」


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