971:その命、尽きるとき(お題:女神) 5/10 ◆AWMsiz.p/TuP
2012/08/12(日) 23:29:20.13 ID:j3F87tL90
「あの」僕は奥さんに声をかけた。
「はいっ」弾けたように、奥さんが笑顔で反応する。
「ここのラーメン屋はいつくらいからやられているんですか?」
ええと、と奥さんが口ごもる。すると店主が口を開いた。
「うちの親父が始めたのが最初なんで、五十年くらい前からやってますよ。それがなにか?」
店主がどんぶりにスープを入れながらいった。なんとなくメニューを眺める。醤油ラーメン、塩ラーメン、味噌ラーメン、牛乳ラーメ
ン。牛乳ラーメン?
「いや、実は人を探してまして、道路挟んだ向かい側にあった店なんですけど、今日来てみたらなくなっていました。スナック『銀河』
という店なんですけど、ご存知ですか?」
「ああ、覚えてます。二十年位前かな……。そこの道路広くするってんで、ビルごと取り壊されちゃって。あそこで一杯やったお客さん
が、よくうちで締めに喰ってってくれたんですけどねえ」
「どこかに移転したんでしょうか」
「さあねえ。お前知ってるか?」
店主が奥さんに目線を向けた。奥さんが黙って首を振る。店主は茹で上がった麺を上げながらいった。
「自分はずっとここに住んでるんですけどね。昔からあそこの道路は事故が多かったんですよ。まあ狭い道路なんで、そんなにスピード
が出てないことが多いから大きい事故は少ないんですがね。あの取り壊されたビルがちょうど目隠しになって、車も歩行者も気付きづら
くなってたんですよ。はいっ。塩ラーメン大盛りお待ちどう様」
カウンターに塩ラーメンが置かれた。半端じゃない大盛りだった。
「いただきます」
麺をすする。鶏と野菜の旨みがふんわりと口に広がった。旨い。チャーシューは鶏肉だ。さっぱりとした肉質が、スープに良く合う。
メンマが少し厚めに切られていて、こりこりとした食感が新鮮だった。
そういえば、と突然奥さんが口を開いた。「事故の話で思い出したんですが、毎月、向かいの電柱におばさんがお花を持ってくるんですよ」
僕は箸を止めた。「花?」
「ええ。昔あそこで亡くなった人がいるらしくて……。月命日だと思うんですけど、毎月二十七日に、お花を持ってくるんです」
それを聞いて店主も何度か頷いた。
「そうだそうだ。俺がまだ小学校の五年か六年くらいだった時に、事故があって女の人が亡くなったんですよ。今から二十七、八年前の
夏ですね。当時はあの電柱の真ん前に例のビルがあったんですけど、あそこの事故で亡くなられたのは、その時だけじゃないかなあ」
僕は携帯電話を取り出し、日付を確認した。
「二十七日というと……明日ですか」
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