315:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/03/10(土) 23:15:58.75 ID:W3+rXRWto
兄君と二人の女の子のうちの一人、幼馴染さんのことは同じクラスだったので顔を見たことはあった。幼馴染さんは綺麗な子でよく男の子に見つめられたり告白されたりしていた。もう一人の顔を知らない女の子は1年生を表す色の徽章を付けていたけど、混んだ電車の中で彼らの話を聞くともなく聞いていると、その1年生の女の子は先輩のはずの兄君と幼馴染さんに全く遠慮したり気後れしたりする様子がなく、気軽そうにタメ口で兄君と幼馴染さんに対して楽しそうに何かを話かけていた。兄君と幼馴染さんもその子のタメ口を気にする様子もなく笑顔で返事をしているようだった。この子も凄く可愛らしかった。あたしが入り浸っているVIPとかで彼女が女神として光臨したら、以前見かけた女子中学生のようにお祭り状態になったに違いない。幼さを残したその子はそれくらい可愛らしかった。
それにしても彼らはどういう関係なのだろう。これまでリアルな人間関係に興味がなかったはずのあたしは、その時珍しくその3人に関心を覚えた。たまたま今日がそうだっただけなのかもしれないけど、男一人と女二人という組み合わせにも何か意味深な感じがする。電車が駅を離れ速度をあげると、電車の中の人混みに押されたあたしはドアの近くから電車の中ほどまで押し出された。何とか吊り輪に掴まり体勢を整えた時、あたしは期せずしてこの三人組の至近距離に来ていることに気がついた。あたしのように吊り輪を確保できなかった彼らは電車の振動に耐えながら、賑かに話を続けていた。その時、突然電車が急停止した。
316:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/03/10(土) 23:17:52.76 ID:W3+rXRWto
電車の揺れに体勢を崩して倒れ掛かった1年生の女の子は、とっさに兄君の体に抱きついて転倒を回避したようだった。兄君も慣れた様子でその女の子の体を抱き取るように抱えて支えた。一方、幼馴染さんも転倒しかかって隣の中年の男性にもたれかかり辛うじて転倒を回避した後、礼儀正しくその男性に謝罪していた。
やがて電車が静かに運行を再開しても、1年生の女の子は兄君の腕に抱きついた手を離そうとはしなかった。むしろ、自分の体を兄君に押し付けるようにしながら上目遣いに兄君に話しかけた。兄君もさりげなくその子の体に手を廻して彼女を支えていた。彼らとの距離が近かったせいで、今ではあたしにも兄君たちの会話が耳に入ってきた。
317:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/03/10(土) 23:21:33.09 ID:W3+rXRWto
「ごめん」
1年生の女の子が兄君のことを、上目遣いに甘えるように見上げながら謝った。
「転んじゃうかと思ったよ」
318:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]
2012/03/10(土) 23:22:21.24 ID:W3+rXRWto
本日は以上です
また明日投下予定です
おやすみなさい
319:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2012/03/11(日) 00:53:07.21 ID:uUP4G8ymo
乙です
320:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2012/03/11(日) 02:02:36.81 ID:gkpxHLVSO
今まで全然気付かなかったけど兄ってシスコンっぽいな
今まで全然気付かなかったけど
321:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]
2012/03/11(日) 15:09:10.74 ID:i8xX8xVso
乙
322:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2012/03/11(日) 23:29:10.62 ID:HtiSRdAzo
今日はお休みかな?
323:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/03/11(日) 23:43:43.45 ID:YvjX1BvJo
今まで周囲の人間関係には全く興味がなかったあたしだったけど、その三人のことはなぜか気になった。単なる仲良しの男女ではないのだろう。仲は良いかもしれないけど、この三人の間にはもっと微妙で重たい空気が流れている感じがした。妹さんの兄君への愛。一見、幼馴染さんはそれを微笑んで見守っているようだけど、時折見せる妹さんへの視線や兄君に向けられた熱を帯びた視線。そして、兄君も妹を大切にしていることは間違いないのだろうけど、時々彼が幼馴染さんをチラッと見る視線は何か意味ありげだった。
それにしても何でこんなにこの人たちが気になるのだろう。
確かにあたしとは違ってこの人たちはリア充だ。毎朝、楽しそうに話しながら登校する男女三人組。でもそれだけで、あたしがこんなにこの三人の人間関係に興味を持つわけがなかった。それに学校にはカップルも含めてリアルな高校生活を楽しんでいる人たちは多くいたけど、あたしはこれまでそういう人たちに関心を抱いたことはなかったのだ。
324:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/03/11(日) 23:47:13.62 ID:YvjX1BvJo
それからしばらくあたしは兄君たちを観察していた。それがどういう動機によるものなのかはわからなかったけど、気になってしまったものは仕方がない。兄君の席はあたしと近い場所だったので、兄君の動静はよくわかった。兄君と仲の良い男の友だちは兄友君。クラス、いや学年全体でも女の子に人気のあるイケメンで、しかも成績も良かった。そして、夏ごろまでは登校中に見かける時はいつも兄君と妹さんと幼馴染さんと三人だったけれども、夏休みが終って最初の登校日に自宅の最寄り駅で久し振りに見かけたのは兄君と妹さん二人きりの姿だった。
この頃になるとあたしはこの三人の事情が、彼らの会話の断片を通じて何となく理解できていた。兄君と妹さんは幼馴染さんの近所に住んでいて、三人は小さい頃からの知り合いらしいかった。それを知ったときあたしの心の中には、意味不明で自分でもよくわからない羨望じみた感想が脳裏に浮かんだ。多くの人に自分を認めてもらいたいという欲求は、この三人には薄いのだろうなとあたしは考えた。小さい頃から自分のことを知り尽くしている人との関係を周囲に保ちながら生きてきたこの人たちには、誰か他人に自分を知ってもらい構ってもらいたいというある意味嫌らしい欲求はないのだろう。それはネット上で構ってちゃんであるあたしとは、真逆の境遇だった。あたしはそう考えた時、心底この三人のことをうらやんだ。きっと、そういうぎらぎらと自分を主張しないでも生きていけるこういう人たちの雰囲気に、あたしは惹かれたのだろう。ようやくあたしは自分が兄君たちに興味を持ち憧れた理由を理解したのかもしれなかった。
325:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/03/11(日) 23:49:05.30 ID:YvjX1BvJo
夏休みの最初の登校日に兄君と妹さんが二人だけで駅に姿を現したのを見たあたしは、スマホをしまって二人の後を追い、いつもより早い電車に乗った。つり革に掴まった兄君の腕にしがみついて電車の揺れをやり過ごしていた妹さんは、兄君を見上げて何かをささやいていた。いつも一緒にいた幼馴染さんがいないせいか、いつもより兄君と妹さんが親密な関係に見えて関係のないあたしまで少しどきっとした。何で幼馴染さんは今日はいないんだろうな。あたしはぼんやりと考えた。病気とかなんだろうか。でも、あたしのその疑問は次の駅で早々に解決した。
「おはよ妹ちゃん」
幼馴染さんは隣の駅から電車に乗ってきた。ただ、彼女は一人ではなく男の子と一緒だった。
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