929:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/05/17(木) 22:59:08.41 ID:5/LK2Ndho
その日、僕はもう日が落ちて薄暗い通りを駅まで妹と一緒に帰った。彼女はもう何も言わなかったけど、校舎から出ると黙って僕の手を握った。完全下校時間になっていたので、周囲には先生に注意される前に校門を出ようと下校を急ぐ部活帰りの生徒たちで溢れていたし、校門の前には急いで生徒たちを校内から追い出そうとしている先生の姿もあったけど、妹はやはり何も言わずに僕の手を握ったままだった。
昨日に引き続き僕と妹が寄り添って薄暗い道を歩いている姿は、きっと下校中の生徒たちに目撃されていたはずだった。こんなことを繰り返していればそのうち僕と妹の仲が噂になるのは時間の問題だったろう。そういう可能性に気がついていないのか、あるいは気づいていてもどうで
もいいのか、妹は周囲を気にする様子もなく自然に僕の手を握ったままゆっくりと駅の方に歩いていった。どちらかというと僕のほうが周りの視線を気にして挙動不審になtっていたから、他人から見たら二人の様子は寄り添うというより、妹に手を引かれた僕が後ろからついて行っているように見えたかもしれない。
妹にとってこれは恋ではない。僕は好奇心に溢れてた周囲の視線に戸惑いながらも、恥かしい勘違いをしないよう自分に言い聞かせた。妹と親密になることが今の僕の目標だけれども、それはこんなに簡単に成就するものではないはずだった。今の妹には僕のほかに相談する相手がいないし、僕には傾聴スキルがあったから妹にとっては僕は唯一の相談相手、それも信頼できる相談し甲斐のある唯一の相手だった。もともと年上の相手に自然に甘えることができる妹なのだから、信頼している相手に手を預けるくらいで妹の恋愛感情を推し量ることはできない。
それに、今の僕は中学時代よりももっと自分に対して自信を持てなかった。手を繋いで一緒に帰るというだけなら女とだって同じことをしていた。そればかりか一度だけ、女は僕に向かって直接僕のことを好きと言ってくれたことさえあったのだ。でも結局女が僕のことを好きだということは僕の勝手な思い込みに過ぎなかった。そう考えると妹が頬にキスしてくれたり手を握ってくれる行為自体を過大評価してはいけない。
有体に言えば妹にとって、僕は臨時のお兄ちゃんになったに過ぎないのではないか。僕はそう考えた。妹が今からしようとしていることは兄君を女から救うということだから、妹はこれまでのように兄君を頼るわけには行かない。それに対して僕は妹の意向を全人格的に尊重する態度をしつこいくらいに示してきた。そのことに安心した妹は、彼女の心の中で僕を臨時のお兄ちゃんに任命したのではないだろうか。
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