10: ◆JbHnh76luM[saga]
2012/02/03(金) 10:20:48.94 ID:ui263o5To
完全に動きが止まった敵機から剣を抜いたエルマーに接触回線を開いて呼びかける。
『やったよ!俺、やったぜ!!』
エルマーの歓喜の声が響いてくる。
『シェルも勝ったんだな!? やったぜ!』
お互いひとしきり喜んでから我に返って目標の探索を再開した。部屋の奥にライノクラフト用の扉があるのを発見し、それを開いた所に目標が立っていた。
『大丈夫ですか?』
拡声器を通してシェルが問い掛けると、目標の女性、少女と言っても良い年齢の女性は手を振って大丈夫だと合図を送る。
『この手に乗ってください。出口まで運びます』
騎体をしゃがませて、少女の近くに手を伸ばしそう伝えると、シェルの言う通りに少女がライノクラフトの手に乗る。エルマー機にしなかったのは、さっきの戦闘でエルマー機の手がオイルなどで汚れていたからだ。
「じゃあエルマー、護衛よろしく」
『任せとけ! 敵なんて俺様がぶった切ってやる!』
シェルの騎体がゆっくりと立ち上がり、背後を見た瞬間、
「エルマー!危ないっ!!」
エルマー機に衝撃が走る。剣で脇を斬られたのだ。装甲が飛び散り、体勢が崩れる。そこへもう一撃。エルマー機が大音響と共に地面に倒れる。
「くっ!」
一瞬戦う事を考えたシェルだが、手に乗っている少女を思い出してその考えを否定する。
(どうする…)
必死で打開策を考える。逃げるしかないのだが、出口は敵の背後にあり、突破するには戦うしか術がない。背後は少女が居た空間があるが、その先がどうなっているか調査をしていなかった。
目標を発見した事に浮かれて調査を忘れた迂闊さを後悔する。敵は2機。6脚の白い重量タイプと、朱い2本腕4脚の中量タイプが目の前にいた。それぞれ細かいディテールと塗装が施されており、明らかにプロのライダーの騎体だとわかる。
じりじりと距離を詰めてくる中量タイプを睨むようにしながらシェルは足元に転がるエルマー機との接触回線を開いた。
「エルマー、エルマー!」
『う……』
攻撃を受け、転倒した衝撃か、エルマーのうめき声が聞こえてくる。
「エルマー! しっかりしろ!」
『シェル……やられたよ』
「大丈夫? いや、今はそれよりも、奥の空間をスキャンしてよ!エルマーの位置だと正面だろ!?」
一瞬の間の後、
『さっきの右側の通路と繋がってるみたいだぜ。俺はいいから行けよ。目標を外に運び出すのが優先だろ』
「立てそう?」
エルマーの騎体をざっと見る。明らかに立てる状態ではない。腰の部分をひどく損傷していた。わずか一撃でここまで損傷を与えるとはさすがは一線で活躍するライダーだと言えるだろう。
『見てわかるだろ、無理だよ』
頭の中で任務達成の為に友達を捨てる意見と友達を見捨てるわけにはいけないという感情がせめぎ合う。
「ダメだよ。一緒に脱出しよう!」
数秒の逡巡の後、シェルは決断を下す。拡声器を通して少女に、
『今から戦闘を行います。危険ですのでそこで倒れているライノクラフトの陰に避難しておいてください』
と伝え、少女を下ろす。同時にエルマーにライノクラフトから降りて少女の護衛を頼む。その間、敵はそのやり取りをじっと待っていた。
(もしかして呆れられてるのかな……)
成績の心配が頭をもたげてくる。ただの模擬戦闘なのだからここまですることは無いだろうし、シェル一人で脱出しても評価は大して下がらない筈だ。それよりも目標を下に下ろし、その傍で危険な戦闘行為をするなど、大幅減点にもなりかねない。
(でも、これが僕のやり方なんだ!)
父の姿が脳裏に浮かぶ。昔から父はそういう人間だった。自分の危険を顧みずに仲間を助ける。それが彼のカリスマでもあったし、実力でもあった。最後も仲間や家族を助ける為に勝ち目の無い敵に向かっていった。シェルはそんな父を尊敬している。
『お待たせしました。少し離れたところで決着をつけましょう』
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